ネーションは、タイ・ラオス関係について「共通の利益と目標があるにもかかわらず不安定な状態にあるタイ・ラオス関係」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下の通り。
タイ・ラオス関係は、最後のモン族の人々を2010年にタイからラオスに強制的に帰還させた際の混乱期以降はより発展するものと考えられていた。この強制帰還に対する国際的な非難があったものの、両国はそれ以降、何とか信頼関係を築いてきた。ラオス政府は、タイがラオス反政府勢力を庇護している、あるいは、彼らにタイをラオス当局との闘いの拠点として使うことを認めているという非難をしなくなった。
タイとラオスの両国は、政治上、安全保障上の困難を何も抱えていないといっても大袈裟ではないだろう。両国は、緊密な関係を築き、相互利益のために協力を進める理由を有している。しかしながら、トンルン新ラオス首相の7月5日、6日の最初のタイへの公式訪問は、両国関係を新たな章に導くようなイニシアティブを生み出さなかった。タイは、トンルン首相にとって4月の就任以降で3番目に訪問した外国である。トンルン首相は、5月半ばにベトナムを訪問し、6月下旬にカンボジアを訪問した。ラオスの指導者は、政治的なイデオロギーを共有するベトナムを最初に訪問するという長年の伝統がある。そのためメコン側両岸の両国民が民族的に、言語的に、文化的に共通性を持つにもかかわらず、タイへの訪問の優先度は低いのである。
トンルン首相がプラユット・タイ首相と会談中、取り上げられたのは、ほとんどお決まりのものと未だ解決されていない古い問題であった。このお決まりのものには、第21回タイ・ラオス協力に関する委員会(JC)及び第3回タイ・ラオス首相・閣僚非公式会合(JCR)に向けての準備が含まれる。首脳会談後に発表された声明によれば、「両国はタイ・ラオス合同調査と陸上国境の画定の進展に満足している。」と両国首相は発言した。
両国は、1996年より国境線画定のための合同国境委員会を設置している。両国は702キロに亘る陸地国境線の画定を近いうちに終える予定である。だが、この作業はここ数年遅延している。とりわけ、1984年と1987年に両国の軍の衝突の引き金になった3つの村とロムクロア村など、いくつかの係争地では解決が難しい。両国は、この地域の問題を解決するために明確な方法がないと主張している。トンルン首相は、自身が外相の時代から両国の草の根レベルでの関係推進のための相互に合意した地域における早期領土確定という、これまでと同じアイデアを提案している。陸上国境問題に加えて、両国はメコン川及びNam Heung流域の1108キロに亘る水上国境線を確定するという技術的な課題を乗り越えなくてはならない。国境画定はすぐには終わりそうにもない。
先週のトンルン首相の一つの明確な成果として、タイ在住の数万人にも上るラオス人出稼ぎ労働者の規制と管理に関する労働協力のMOU署名がある。タイ在住のラオス人労働者は、一般的にミャンマー人労働者よりも問題が少ない。ラオス人労働者は、民族的に、文化的に、言語的にタイと共通性があることを利用して、違法で就労していても、タイ当局の注意を喚起することがない。
両国は、メコン川の利用に関し、共通の課題に直面している。政府の声明から判断すると、どちらの国もこの問題にどう取り組むべきかアイデアを持っていないようだ。両首相は、水管理の調査を実施し、他の利害関係者と共にメコン川の体系的な管理について議論をすることで合意した。
タイ・ラオスの二国間協力は、課題に対処していくには十分ではない。メコン川管理は、地域的なアプローチと中国、ミャンマー、カンボジア、ベトナムを含めた流域の全ての利害関係者からの協力を必要とする。ラオス国内でのメコン川支流における水力発電事業は、主にタイでの電力消費に使われるが、下流域の人々と環境にマイナスの影響を与えることになる。二国間関係を地域的な視点からみれば、影響を与える全ての国に対して、両国が共同で責任を持つ必要がある。
両国首相は、両国が地域のロジスティックの要になるという共有された夢を達成するために、いわゆる「連結性」についても議論した。タイは地域のハブになりたい。一方ラオスは、1990年代初頭より、陸地に囲まれた地理を東南アジア全体をつなぐ陸の通路(Land Link)にしたいという夢を持っていた。道路、鉄道、空港といったラオスでの運輸インフラが整備されつつあり、これらは順調に進んでいる。しかし、中国の昆明からラオスを経由してタイに向かう鉄道による連結には、明るい未来はみられない。ラオスは中国と鉄道事業につき何とか合意に至ったが、タイは、中国との合意に至るための明確な道筋を未だ見いだしていない。鉄道連結計画には、まだそのような深刻な食い違いがある。