イサラニュースは、タイ政府との和平交渉に参加したタイ深南部武装勢力の幹部の死去に関する評論記事を掲載しているところ概要以下のとおり。
3月中旬、数多くの情報筋から、タイ深南部の分離独立を目指す武装勢力の重要人物の一人が謎の死を遂げたとの情報がもたらされた。マレーシア政府は、その人物が自動車事故で死去したと説明し、他方でマレーシアの治安機関高官は、マレーシアのトレンガヌ州で手製爆弾の作成指導中に事故に遭って死去したと述べている。この人物は、側近の一部からは「アーハマッド」または「アーブ」と呼ばれる人物で、タイ政府との交渉で重要な役割を果たしてきた人物であった。
2013年のインラック政権時、パラドン・パッタナーターブット国家安全保障会議(NSC)事務局長を代表とするタイ政府代表団とハッサン・トーイップBRN幹部を団長とするBRNとの間の和平交渉にも、アーハマッドは、BRN交渉団の事務局長として参加していた。またプラユット政権と6つの武装勢力のアンブレラ組織である「マーラーパッタニー」との間での和平交渉でも、アーハマッドは、交渉団全体で議論する前段階で、様々な課題についての詳細を検討するための技術作業チーム乃至小委員会での役割を担っていた。
興味深いことに、マレーシア側は、この人物の死去の報を隠蔽しようとしていたことである。その理由は、タイ政府との和平交渉に影響を与えることを恐れたからであるが、タイ治安機関は、アーハマッドが手製爆弾の作成指導中に事故に遭って死去したことが真実であれば、それはマレーシア政府がマレーシア国内に居留するタイ深南部分離独立を掲げる武装勢力の動きを十分に管理出来ていないか、さもなけば、マレーシア国内の治安情勢と国際テロリズムに関与していない限りにおいて、彼らが活動出来るように片目を瞑りながら見過ごしていることを示していると見ている。もし、そうであれば、和平交渉の仲介役としてのマレーシア政府の不十分な真剣度を反映したものであろう。
過去数ヶ月、深南部でのテロ事件は統計上、大きくその数を減らしてきた。マーラーパッタニーとアクサラー・グーットポン陸軍大将を団長とするタイ政府和平交渉団は、「安全地帯」設定のため、現在、初めて合同でルール作りと状況評価を実施しているところである。マレーシア政府は、ドゥンロ・ウェーマノーとその周辺の武装勢力の幹部達を呼び出し、安全地帯内でのテロ事件を禁じたとの報道がある。ドゥンロは、長年マレーシアに居住していたスペイン・バソーの死去後にBRNの指導者として権力を掌握したばかりである。仮にマレーシアの役割が報道のとおりであれば、深南部の治安維持も治安悪化もマレーシアの影響力と意図次第で左右されることを意味する。従って、和平交渉は、持続的で本質的な平和構築を保証しないのかもしれない。
アピシット民主党政権時(2008年~2011年)の和平交渉団の一員であったクライサック・チュンハワン元議員は、以前に「イサラニュース社」のインタビューに答え、マレーシアはタイ深南部問題に関して利益相反関係にあるので、マレーシアを和平交渉の仲介役とするべきではないと述べている。アピシット政権は、インドネシアを仲介役とし、和平交渉で3つの郡を安全地帯に設定することに成功している。クライサック曰く、「これまでマレーシア政府に対して、マレーシアに逃亡中のタイ当局から逮捕状の発付されている人物の身柄引き渡しを要請してきた。さもなくば、少なくとも分離独立武装勢力の重要メンバーの管理をしておくように要請してきた。しかし、具体的な成果は得られたことがなかった。」
「帰還事業」、すなわちタイ当局より逮捕状が発付されている者も含む武装勢力メンバーが心を入れ替えて、帰国を望んで自ら出頭し、タイ当局が彼らの帰還を受け入れる住宅地をパッタニー県パナーレ郡に準備している事業であるが、この事業に関しても、元第4方面軍副司令官のアクニット・ムーンサワット陸軍大将が以下のように注意を呼びかけている。
「分離独立武装勢力のほぼ全てのレベルの指導層がマレーシアに数多く居住している。帰還事業を進める真の目的は、マレーシアがタイ治安当局側の有する名簿と逮捕状を照合して、これらの人物を送還してくれないからである。もしマレーシア側が彼らをマレーシア国内に居住させておきたいのであれば、彼らの運動がタイの治安情勢に影響を与えないように管理下に置くため、彼らが集合して居住するための住宅地を整備し、彼らの親族がタイ側から訪問してきた際には、その度に面会を認めるように配慮すべきである。」「このような問題解決方法は、タイ政府は過去数十年前にマレー共産党ゲリラ勢力問題の対処のために使用したことがある。その際には、交渉が成立した後、マレーシアに帰還することを望む者には、身柄を送還をしてやり、帰還を望まない者に対しては、タイ政府が住宅地を整備し、生計のために土地を譲渡した。マレーシア側の親族が面会のためにタイ領内の住宅地を訪問しようとした場合には、タイ当局と連絡調整するというものであった。このような方法であれば、マレーシアの治安に影響を与えるようなことなく、(マレー共産党)中国人ゲリラの運動を管理することが出来た。」「しかし他方でマレーシア政府は、何も実施しようとせず、マレーシア居住の武装勢力に自由に活動をさせたままである。しかも先日には、ケランタン州内の或る「ポノ」(イスラム学校)でBRNの新しい指導者を選出するための会議を開催することまで許してしまっている。」