ポストトゥデイ・オンライン版は、「下院議員買い取り市場が熱い:選挙屋の値段が高騰」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 現在に至るまで未だに選挙日程は明確になっていないが、プラユット首相兼NCPO議長は、19日に総選挙の実施は戴冠式後になるとの重要な発言をしている。また英国でメイ首相と会談した際には、選挙の実施に必要な法案の審理は終わっており、来年確実に総選挙が実施されると確約しており、選挙の日程はより明確になりつつある。プラユット首相は、選挙の実施を延期させる目的で具体的な日程を明らかにしないのではなく、正式に選挙実施日が発表できるように準備が整うことを待つ状態になったのである。その準備として、来週(25日)に予定されているNCPOと政党との協議があり、政党法で定められている問題含みの予備投票の実施の有無を含む総選挙に向けての方策が話し合われる予定である。

 上記のような動きが総選挙日程の決定に向けて進展しつつあるが、もう一つ別の現象も見られるようになってきた。それは、「元下院議員の買い取り市場」(タイ語:タラート・ショッピン・ソーソー)がこれまで経験したことがないような活況を呈していることである。特にスリヤ・ジュンルンルアンキット(元運輸相)とソムサック・テープスティン(元副首相)が官民協力(パラン・プラチャーラット)党の幹部として政界に復帰し、同党と適度に距離を保つソムキット副首相と一緒に活動しているからである。同党の目的は、タイ貢献党の地盤である東北部及び北部の元議員を出来る限り多く吸引することで、タイ貢献党の手足を削ぎ落とすることである。

 当初、誰もが、タイ貢献党元議員はタクシン元首相のカリスマ性の恩恵を受けることが出来るタイ貢献党を捨てて出て行くことはないと思っていた。しかし、NCPOが支配するこの4年間で様々な条件が変化していた。「スリヤは金があり、ソムサックはカリスマ性があり、ソムキットは権力がある」ので、彼らがタイ貢献党の元議員を訪問した際に手厚い出迎えを受けたことは不思議なことではない。何故ならば「選挙屋」(タイ語:ナック・ルアックタン)は、「先を知る鳥」(タイ語:ノック・ルー)のように、どちらに味方すれば勝利者になれるのか、その方向を知るという特別な能力を有しているからである。

 タイ貢献党を取り巻く状況は不安定であり、未だに党首を決定することが出来ず、しかも同党の幹部の多くは訴訟を抱えている。そのため同党所属の元議員は、タイ貢献党の「軒下」がどれくらい安定しているのか不安に思っているのである。そこでタイ貢献党と一緒に溺れ死ぬよりは、「剣先を出して死ぬ」(タイ語:パイ・ターイ・アオ・ダープ・ナー)の方を選ぶ者もいるのである。

 「元下院議員の買い取り市場」が信じられないほど活況となっている要因を探してみれば、「小選挙区比例代表連動制」という選挙制度が関わっていることが分かる。同選挙制度では、小選挙区候補者への1票の投票のみにより、500人の下院定数中の350人の小選挙区制と150人の比例代表制の双方を選出するのである。重要なことは、比例代表制の選出の際には、小選挙区で敗北した候補者が獲得した得票数も議席割り当ての計算に繰り入れられる点である。理論上このような制度は、「選挙屋」に利益をもたらすことになる。小選挙区選出の元下院議員で自らの古い地盤を有している政治家の多くは、それを利用して、自らの利益を最大化させるために(所属政党を巡って)交渉を有利に働かせることができるためである。

 他方、ある程度の得票数を有しながら小選挙区で勝利することが出来ないような政治家でも、その得票数を比例代表制度での議席獲得に貢献させることが出来るので、その報酬として、大臣政務官や秘書官などの役職が与えられるかもしれない。「A級」ではない、2軍レベルの政治家や3軍レベルの選挙屋であっても、一定の得票が見込めるのであれば、官民協力党のような空いてる田圃をたくさん有する新党にとっては、非常に好ましい人物なのである。

 「元下院議員の買い取り市場」の活況は、官民協力党のみに利益をもらたすものではなく、ステープ・トゥアクスバン元PDRC事務局長が率いるタイ国民結集(ルアム・パラン・プラチャーチャトタイ)党にも同様の利益を与えるのである。これまでに南部で民主党の候補として下院議員選挙に立候補できなかった政治家達に、より良い立場に昇格できる機会を与えることになる。これまで南部では、特定の派閥(民主党)が候補者を数十年間も独占してきたが、その派閥の常連候補者連中から不利に扱われることなく立候補が出来るようになるのである。

 以上のように元下院議員達にとっては、所属政党の移籍に向けて空が晴れたような状況になったが、他方で(大政党には不利な制度である)新しい選挙制度の奇跡によって、二大政党は、未だ選挙活動に入る前から頭が痛い状態となっているのである。