ポスト・トゥデイ・オンライン版は、「新党は高望みせず、控えめに国会で議席を得るために闘う」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。
タイ政治は不透明な状況が生じつつあることが明確となってきている。特に総選挙の実施に関しては、プラユット首相兼NCPO議長が2019年初旬には実施されると繰り返し強調していながらも、国家立法議会(NLA)は、選挙関連の憲法付属法案について、不安定性を生じさせると批判をしている。この少し前にNLAは、下院議員選挙法案と上院議員選出法案の最後の憲法付属2法案に関し、憲法違反に該当するとの疑念がありながらも、法案に同意した。しかし最終的にNLAは、圧力に耐えきれず憲法裁判所の判断を仰ぐ手続きを行い、憲法裁判所は違憲審査を受理する判断を下した。同法案が憲法裁判所を通過すれば良いのであるが、もし、そうならなければ、再び同法案を最初から起案し直す事態に戻らなければならなくなるかもしれない。そうなれば、少なくとも1~2年の時間を要することは確実であろう。4年間も総選挙の実施を待たされた上で、さらにこの状態が継続するとの懸念を生じさせている。
総選挙の実施に関して不透明な状況下であるものの、他方で選挙管理委員会(EC)に対して、新党設立の意志表示をした個人やグループが多数存在している。ECによれば、4月初旬時点での98の政党設立希望があり、既にその一部は政党登録手続きの認証を得ており、認証を得た後で新党設立者達は、正式な政党とすべく法律の規定に従って手続きを実行していくことになる。98の新規政党数は、ある程度政治的な意図を反映したものである。なぜなら前回2011年の総選挙の際に選挙に臨んだのは、40の政党に過ぎなかった。要するに次回の総選挙の際には既存政党と新規政党を併せて、国民は100を超える政党から議員を選択することになる。数多くの新顔の人々が新党設立を希望しているのに、(今回初めて導入されることになる)「小選挙区比例代表連動制」について、なぜ数多くの関係者が一致して、「政党を弱体化させるシステムである」と批判しているのかという疑問が生じる。
現在の選挙制度は、国民による小選挙区候補者に対する1票の投票のみにより小選挙区と比例代表を決定する仕組みである。小選挙区候補者への投票を全国合計して(各政党の獲得議席を決めた後に小選挙区で当選候補者で党外数が満たなかった場合に)各政党への比例代表議員を選出する。全ての得票数が比例代表制度と連動するのであれば、各政党は、最大の得票数を得るためにA級の人材を選挙区へ投入することになる。これまで従来政党が長らく支配している地域では、むしろゼロからスタートした新党を有利にさせることになる。同選挙制度は、新党に小選挙区で勝利する可能性を与えないにもかかわらず、小規模な新党に利益をもたらすのである。総選挙の地政学がかなり変化しようとしているのである。これまで、どの従来政党であろうと政党の支持率は、それほど高いものではなかった。それが新党にとって、比例代表制で従来政党と争う機会を与える隙間となるのである。要するに、新党は社会の潮流に乗って、小選挙区で勝利することを目指すのではなく、従来政党から得票を奪って、比例代表への得票を積み増すことを目指して、控えめに闘うのである。従って、新党が従来政党を対抗するため新顔であることをセールスポイントにすることは不思議なことではない。
ECは、比例代表制度による1議員につき7万票の得票数になると分析している。この7万票という数字は、既存政党と闘うという潮流に乗って推進力を得れば、各新政党にとって到達がそれほど難しい数字ではない。従って、過去のように数少ない政党によって寡占されることはないのである。