プーチャットカーンは、「タクシンが『亡命政権』樹立への意図をみせる:世界からタイを包囲してNCPO政権への圧力を強める」と題した評論記事を掲載しているところ概要以下のとおり。

 インラック・シナワット元首相が5年間の禁固実刑判決を受けたコメ担保融資制度に関する裁判から逃亡し、現在は英国のロンドンに潜伏していることは、国内外の多くのニュースが真実であると確認している。今回の逃亡は、単に収監から逃れるためではなく、NCPO軍政に報復をするためのゲームを進めることを意図したものである可能性がある。現在、インラック前首相は、既に女性犯罪者の身分となっており、英国で亡命の申請手続きを進めていると言われるが、今後、本当に英国で亡命申請をするのかどうか注目していく必要がある。

 亡命が認定されるのは容易なことではなく、そうでなければ兄のタクシン・シナワット元首相も(2006年クーデター後に)英国で亡命申請をしていたはずである。英国のような大国での亡命申請であっても、誰かの政治亡命を受け入れる時には問題が生じる可能性があるため、慎重に検討されることになる。タイ政府に亡命認定に賛成するかどうか、わざわざ尋ねるようなことはしないものの、国際関係は重要な検討事項である。それに続き、インラック前首相の場合は、普通の刑事事件ではなく、不正事件であるため、「違法性」も検討事項となる。これは相当にセンシティブな問題であり、タイ側からネガティブに受け止められるリスクがある。「汚職追放協力条約」(ママ)が存在するため、インラック前首相の案件は「政治案件」として処理し、タイ政府が身柄引き渡しを望んでいても、それは政治的な理由での処罰を望んでいるに過ぎないという風に英国が説明をすれば、インラック前首相の政治亡命の認定をすることが可能となる。

 現在、タクシン元首相がインラック前首相の案件について、ロビー活動をし、自身が雇った外国メディアに潮流を作らせるため、「インラック前首相のコメ担保融資制度の案件は、2014年5月22日のクーデターによって仕組まれた政治案件である」と頻繁に記事を執筆させているとの噂が広がっている。それ以外にタクシン元首相は、「紳士の国」で、様々な投資事業を実施して築きあげた個人的な人脈を活用し、妹であるインラック前首相が亡命認定を受けられるように、英国政府に圧力をかけることもできる。タクシン元首相が自身の時(2006年クーデター後にで政権を追われた)にどこの国においても亡命申請をしなかったのとは異なっていることが興味深い。今後のゲームがどうなるのか注目していかなければならない。このまま留まっているとは思えない。「亡命」を利用して何かをしようとしているに違いない。当然ながら可能なことの一つとしては、「亡命政府の樹立」がある。

 「亡命政府」(Government in- exile)とは、或る国の指導者ないし指導グループが、「正統性を有さない」と自身達が考える政府を打倒するために、他国の土地において政府を樹立するものである。亡命政府は、実際に自身の国での行政権限を失っていながらも自身の政府は正統性を有すると主張し、受け入れ国(Host state)の政府から亡命政府の樹立の許可乃至承認を受けた上で国際社会からも認知されなけばならない。亡命政府は、実効的に自身の国内の国土及び国民に及ぶ主権を有していないものの、一度樹立されれば国際法上の影響を及ぼすことになる。その中には、以下のようなものがある。①亡命政府は条約を締結することができること、②亡命政府は国際機関での席を有して代表を送ることができること、③亡命政府は外交関係を承認することができること、④亡命政府は各政府から特権と保護を受けることができること、⑤亡命政府は外国に所在する政府財産を処分する権限を有すること。

 インラック前首相とタクシン元首相は、亡命政府樹立に強い関心を有しているとの噂がある。なぜなら、それこそが敵対勢力への報復が可能な唯一の戦略だからである。もし、そのようにゲームが進展すれば、ホスト国や諸外国との間で問題が生じるだけでなく、亡命政府が承認されることにより、タイ国内のインラック支持者、タクシン支持者からも支持の声も沸き上がることになる。だからこそシナワット家による亡命政府樹立が起こり得るのである。インラック前首相による極めて秘密裏な動きは、上記のゲームを進めようとする静かで深淵に潜んだ動きなのであり、治安機関を恐れさせることになる。インラック前首相とタクシン元首相が亡命政府の樹立を宣言することが現実となれば、プラユット首相のNCPO政権にとって大問題となり、予想が出来ないほどの衝撃を受けることになる。