マネージャー・オンライン版は、タクシン元首相とNCPOに関する評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 「蟹ちゃん」ことインラック・シナワット前首相の逃亡にもかかわらず、軍事政権は全く困った素振りを見せていない。その様子から理論的に考えると、「NCPO内のボス」と「タクシン体制のボス」との「ボス同士の間での交渉」があり、「蟹ちゃん」を逃亡させることに合意が整っていたことが想定できる。だが、それは両者間の合意事項パッケージの中では、小さな事柄に過ぎない。

 ボス同士は、次回の総選挙までの長期的な先行きを見ているのである。つまり「NCPO内のボス」は、「虎の背中」から下りるつもりがなく、憲法と憲法付属法によって規定されたメカニズム、関連する多様な委員会を通じて、今後も権力を握り続けるつもりでいることが明確となった。しかし、「軍人貴族」(クンタハーン)として安定的に権力の座に居座り続けるためには、まだパズルの重要な一片が欠けたままとなっている。それは、選挙制度を通じて選出される「下院議員」の存在である。「NCPO党」は、任命制の上院議員250人を基盤としているものの、それが重要な役割を担うのは、下院と一緒に投票権を有する「非議員首相」選出の際に過ぎず、それ以外の法案審議や各種調査には、下院を通過しなければならない。以前には、「軍人政党」を設立し、タイ貢献党やその他の政党と汚職・不正競争をしようと目論んでいたが、選挙の戦場に下りてくる候補者が少ない場合には、軍人政党は上手く機能しないという教訓をこれまでに得てきた。権力者は、敵に面と向かって殺し合いの闘いを挑むよりは、異なる最終回答として、大物同士で利益を分配するように合意することを選択したのである。

 「軍人貴族とタクシン体制間」の「手合わせ」(テムーカン)は、実際に起こるとは信じられないだろうが、両者の関係を過去に遡って深く慎重に検討すれば見えてくることがある。「ポムの兄貴」ことプラウィット陸軍大将は、2001年以降のタクシン政権下で出世を続け、最終的にはタクシンの後押しを受けて、2004年に陸軍司令官に就任したのである。また同様に「東部の虎」派閥の副将、「ビック・ポック」ことアヌポン陸軍大将は、タクシンとは予科士官学校10期生の同期の近い関係にあり、これまで両者が直接的な対立関係になったことはない。その次の予科士官学校12期生の「ビック・トゥー」ことプラユット陸軍大将は、タクシンの予科士官学校時代の後輩であり、「メオ(タクシン)兄貴を凄く信頼している」と過去に発言したこともあり、インラック政権時には、「イ」首相の側で働いていたこともある。つまり、「ポム(プラウィット)~メオ(タクシン)~ポック(アヌポン)~プー(インラック)」は全て緊密に繋がっているのである。

 「ウィン・ウィン」でお互いの利益になる関係を構築すれば、闘う必要などなく、一緒に幸福に過ごすことが出来る。またプラウィット副首相兼国防大臣の実弟のパチャラワート警察大将、通称「ビッグ・ポッド」の2008年10月7日、黄シャツデモ隊強制排除事件の責任追及を巡る裁判の苦難は、タクシンの義弟であるソムチャイ・ウォンサワット元首相と分かち合った。国家汚職防止委員会(NACC)委員長のワチャラポン警察大将は、パチャラワート警察大将と親しく、意図的にパチャラワート警察大将とソムチャイ元首相の両名を最高裁大法廷への上告の対象から外した。これは「ウォンスワン家体制」と「シナワット家体制」が親しい関係であることを示す「領収書」であり、軍事独裁と資本家独裁が混合された「チン(ナワット)・(ウォン)スワン体制」の構築を準備しているのである。耳にするだけでも鳥肌が立つ程の恐怖である。

 ところで、恋愛関係の男女間では、「女性の言う『NO』の意味は、『YES』であり、男性の言う『NO』の意味は、実際に『NO』である」としばしば語られる。この言葉は、政治にも当てはまっている。「イン・ノイ」ことクンイン・スダラットの事例である。スダラットは、タイ貢献党幹部であり、同党の次期党首候補として名前が挙がっているが、記者に党首就任の噂にについて質問されると、「党内には既に党首がいる」と答え、メディアは、「スダラットはタイ貢献党党首就任を否定」と報じている。しかし、これは、「裏側」での動きと食い違っている。関係者は皆が揃って、スダラットが常にタイ貢献党を率いたいと主張していると語っている。

 実際のところ、タクシン義弟のソムチャイ元首相が黄シャツ強制排除に関する最高裁裁判で無罪となった際には、「ソ」元首相の夫人であり、「ワンブアバーン派の女領袖」であるヤオワパー・ウォンサワットを支持する人々から「ソ」元首相の党首就任待望論が巻き起こったが、コメ担保融資制度の不正を巡る裁判において、「ジェー・デーン(ヤオワパー)」の妹である「蟹ちゃん(インラック)」の逃亡との自らの子飼いであるブンソン元商務相の40年を超える禁固刑の判決受け、「ジェーデーン」の党内での信頼性を著しく低下させることになった。そのような背景があり、「イン・ノイ(スダラット)」の勢いが強まっている。「チン・スワン体制」の構築にとって適切な候補であろう。「蟹ちゃん」の逃亡を通じて「軍人貴族」と「タクシン体制」が和解を勧めている状況下であり、次はタクシンの息子の「オーク」ことパートーンテー・シナワットが関与したクルンタイ銀行不正融資事件への追及を無期限で延期にすることが控えていることから、「ポム兄貴(プラウィット)」と親しい関係にある「イン・ノイ」は、それを受けて勢いを得ているのである。