ポストトゥデイ・オンライン版は、「第44条の膨張、ピックアップトラックを戦車(注:軍政の比喩)に衝突させる」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。
2014年にプラユット首相兼NCPO議長がクーデターを実行し、インラック政権を崩壊させた当初を振り返ってみると、NCPOは、政治課題を処理する以外にも、社会問題を少なからず重要視していたことが覗える。バイクタクシーグループ、ロットトゥー(ミニバンバス)の秩序整備、政府宝くじの価格管理、路上販売の場所規制など、これらの問題にNCPO政権と同じくらい本気で取り組んだ政権はこれまでに存在しなかった。なぜなら、これらの問題は、マフィア(プーミーイティポン)と関わる問題であり、彼らが政党の支持基盤の一部でもあるからである。それに、これらの問題に関与すれば、それによって影響を受ける一部の国民からの反発を招くことになるからである。従って、これまで多くの政党による政権は、支持基盤を失って、人気を落とすことを望まず、あまり真剣に関わろうとしてこなかった。これらの問題は、蓄積されて箱から溢れてしまっていたのであった。その時に権力を持ったNCPOが現れて対処をすることになったのであった。
NCPO政権の初期には、これらの問題の手術を実施し、問題解決の具体的な成果を示したことで、ある程度の評判を得たことは否定できない。政治家によるこれまでの政権が本気で取り組んで来なかったこととは異なっていたからである。政府宝くじ問題に関して言えば、NCPO政権は、強権を使って、一枚80バーツで販売することを義務づけるという信じられない成果を出すことが出来た。バイクタクシーの秩序整備も同様であった。消費者が不利益を被ることのない適切な価格を設定することが出来た。首都バンコクの重要地域での路上販売の規制に関しても、同様に素晴らしい成果を出すことが出来た。これらの問題解決に着手し、具体的な成果を出したことで、NCPOは、相当の人気を獲得した。重要なことは、NCPOは、それにより、国民から政治的な動機のみによって権力を掌握し、絶対権力を使用したのではないと見られたことである。
現在、これまでNCPOの人気を高めてきたことが、信じられないことに今度はNCPOを逆に傷つけるようになってきている。それは、最近の交通秩序管理に見ることができる。NCPO政権は、個人自動車、旅客自動車の交通秩序管理に着手し、ピックアップトラックの荷台部分に人間を乗せることを禁じた。NCPOは、この課題に本気で取り組むため、2014年暫定憲法第44条の強権を発動した。同強権を発動すれば、規則は即時に発効するので、(死亡事故の多発する)ソンクラン(タイ旧正月)休暇に適用が間に合うからである。NCPO側の視点は、以下のように理解できる。NCPOがこれまで警察職員に交通法規の厳しい適用を促してきたにもかかわらず、事故発生の統計的な数字は全く減少がみられなかった。ちょうど年末年始にバンコク~ジャンタブリ路線のロットトゥーの事故が発生し、多くの死傷者が発生したこともあり、ソンクラン休暇期間中に同じような事故を発生させたくなかったのである。それがNCPOを焦らせ、規制強化に向かわせたのであった。しかし、別の視点からみれば、第44条の発動は、憲法規定に次ぐ最高の形態の権力行使であり、このような課題に適用するということは、「一匹の鼠を捕まえるのに家ごと燃やしてしまうようなこと」である。
第44条の発動は、国家構造に関わるような大きな問題を解決するために適用されるべきであろう。例えば、経済、政治、汚職などの主要な問題である。これまでNCPOは、同条項を発動することで、一定の高評価を得てきた。しかし、第44条の発動が必要のないような課題にまで何度も適用されたことで、第44条を(無駄に)膨張させてしまったのである。忘れてはならない重要なことは、第44条の発動は、その度にそれが普通の国民の総意を経て施行された法律と比較されることである。この前のピックアップトラックに関する第44条の発動は、国民生活に大きな影響を与えることであった。さらに深刻なことは、第44条の発動は、法的に最高の保護を受けるだけでなく、見直しを求めて裁判所に訴えを起こすこともできないことである。もし、第44条の発動によって自動車の所有者が問題に直面したとしても、それを法手続に従って、訴えを起こし、解決の道を探ることは、どうやってもできないのである。
NCPOが第44条を発動する際に、ネガティブな反応の方が、ポジティブな反応より多くなってきている。オンラインメディアから大きな反発が巻き起こり始め、NCPOを様々な形態で馬鹿にする潮流が生まれたことで、第44条の権威を貶めることになった。このような理由によって、NCPOは、一旦バック・ギアを入れざるを得なくなり、国民がソンクラン期間中にはピックアップトラックの荷台に乗れるように修正し、その後、再度適切なルールを定めることになった。これは、NCPOが第44条の発動による厳しいルール適用を緩めた初の事例である。今回、NCPOが得た重要な教訓は、公共の総意を欠いて絶対権力を行使する場合、それは想像も出来ないほどのダメージをNCPOに与える可能性があるということであった。