ポストトゥデイ・オンライン版は、深南部での政府代表団と武装勢力との間の和平合意に関する評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。
先月28日のタイ政府とマーラーパッタニーとの間の和平交渉により深南部での和平成立へ前進した。深南部の3県5郡に安全地帯を設置することに合意し、今後は詳細について取り決めるため、市民団体を加えた合同の作業チームが設置される。5郡に安全地帯を設置することは、メリットとデメリットを抱えた「諸刃の剣」でもある。もし成功すれば、長年続いた対立を解消に向かわせる出発点になり得るが、もし失敗すれば、それはマーラーパッタニーの影響力を反映したことになる。つまり、傘下の武装勢力に合意事項を従わせるように管理できておらず、武装闘争が継続することになる。安全地帯の設置は、新しい試みではない。和平交渉を開始した2013年からタイ政府側がこれまでも実現に向けて推進してきたが、提案するだけに留まり、合意にまで至ることはなかった。タイ側の視点からは、安全地帯を設置するための交渉は以下のように多様な側面から重要であった。
第1に、地域での暴力事案の件数を削減させることである。たとえ対立を解消することが出来ないにしても、暴力事案の発生を無くせることが示せる。そこまで至らなくとも、少なくとも暴力事案の発生を広く拡大させるようなことはなく、設定された枠内に留め置き、管理が出来ることを示すことができる。重要なことは、商業地域や中心地域に安全地帯を設置できれば、心配を軽減させることでき、深南部地域内外の人々と投資家の信頼を得ることにつながる。これまで投資家やビジネスマンが暴力事案により事業投資をする自信を喪失していたが、保証が得られれば、将来の地域の経済が元に戻り、経済成長し、前進していくことになる。
当初、タイ側は、安全地帯をソンクラ-県ハジャイ郡を含む4県7カ所に設定しようとしていた。それは、最も広大な地域の経済振興を意図していたからである。だが最終的に交渉の結果、以前にタイ側が提示していた2郡から5郡にまで拡大させることに合意できた。その5郡とは、ナラティワート県のスンガイコーロク郡とジョアイロン郡、ヤラー県のラーマン郡とバンナンサター郡、パッタニー県のサーイブリー郡である。
第2に、今回の安全地帯設置により、マーラーパッタニー側がどの程度実行力があり、効率性があるのか、その潜在力を試すことになることである。今回の安全地帯設置のための試みは何年間も続けられてきたものであるが、まだ確実に成功したわけではないことを忘れてはならない。つまり、双方の「条件」について見解が一致しておらず、その実行を果たしていない。特にマーラーパッタニー側がタイ政府に要求している条件は、逮捕状の取り消し及び重要幹部の法手続の停止である。彼らは地域内での関係者との諸調整のためには自由な活動が保証されなければならないと主張している。そして、マーラーパッタニーが交渉相手であると宣言することも要求している。
しかし、上記の全ての条件は、タイ側にとって大き過ぎるリスクとなっている。タイ側が重要幹部の法手続を停止し、マーラーパッタニーが主要な交渉相手であると宣言すれば、このグループの重要性を認めたことになってしまうので、望ましくないことなのである。もし、認めてしまえば、他の武装勢力も自らの影響力を誇示するために暴力的運動を起こそうとすることになってしまう。
第3に、本当に安全地帯が設置されたならば、暴力事案の発生を最もスムーズに減少させることでき、タイ側にとっての大きな成果となることである。その後に問題解決に向けて大きく前進することが出来る。しかしながら、安全地帯設置の合意が成立した後にも安全地帯の外側とはいえ、暴力事案が依然として発生している。ナラティワート県ルーソ郡では、ピックアップトラックが武装勢力に襲撃され、爆弾により車の所有者、銃撃により村長補佐とその妻及びその子を含む4人が殺害されている。マーヨー郡では、軍人3人が銃撃され殺害されている。これは、まだマーラーパッタニー側が状況を完全には制御していないことを示している。タイ側が要求事項を受け入れようとしていないからなのか、それとも他の武装勢力がマーラーパッタニーの統制を外れて勝手に活動しているからなのかは分からない。
今後の和平成立への道は期待しているほど容易なものではないことも示している。アクサラ-・グーットポン陸軍大将・陸軍顧問団長が和平交渉団長として任命され、広報に長けているピヤワット・ナーカワニット陸軍中将を第4方面軍司令官に配置するなど今回は問題解決のために本気で取り組んでいた。それが状況を改善に向かわせてきたと思われる。しかし、安全地帯設置の合意が前進をしなければ、以前よりも暴力事案が激化するような事態にもなりかねない。