マティチョンは、「国民投票結果を解釈する;追加質問が非議員首相を迎える扉を開く」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。
パイブン・ニティタワン氏(注:元上院議員、元国家改革会議議員、元憲法起草委員)が憲法草案と追加質問に関する国民投票が可決となった結果が出た直後に、急いで「国民改革党」の結成を発表した理由は何であろうか。その理由を政党結成の会見から検討し、手短に整理してみれば、その理由は、社会から疑惑の目で見られることを打ち消すことであった。特に以下の発言からはっきりしている。「私は、このようなこと(注:プラユット首相を民選内閣の非議員首相として迎えること)を提案した最初の人物である。この発言が、自身が上院議員に任命されたいのではないかとの疑念を抱かれないためにも、今後は上院に選出されることを受けることはなく、下院議員に立候補する予定であることを明確にしておく」。
パイブンは、ワンチャイ・ソーンシリ等の「上院40グループ」などと同様であることを忘れてはならない。彼らは、(2006年クーデターを主導したグループによって起草された)2007年憲法による「任命制」によって、政治活動を開始した人物達である。ミーチャイ版憲法草案と追加質問は、NCPOによって選出される上院250人に、下院に加わって、首相選出の投票に参加させる権限を認める。今後数ヶ月後に正式に施行されることになる2016年版憲法は、「任命された人々」の人数を以前よりも増加させるだけでなく、権限を強化させることになる。
これまでパイブンは、任命制の上院議員として、「上院40グループ」のリーダー格の役割を果たし、2007年憲法が職業政治家によって改正されることを防いで来た。国会では、立ち上がって、厳しく、(政敵を)批判してきた。民主党下院議員と協力しながら、憲法裁判所に(憲法改正が違憲であり、不正であるとの)申し立てを起こし、憲法裁判所に(憲法改正に賛成した)上下院の元国会議員の不正を認定させ、5年間の政治活動禁止処分に追い込むまで後一歩というところまで導いた実績を持つ。またインラック政権によるタウィン・プリヤンシー国家安全保障会議(NSC)事務局長の恣意的な人事異動を取り上げて、上院の仲間達の署名を集め、憲法裁判所に申し立てを起こし、インラック首相及び閣僚を失職に追い込む判決を導いた。さらに、タイ貢献党が進めた恩赦法案に対し、その反対運動を展開した際にも、その役割は少なくなかった。ウィタヤー・ゲオパラダイPDRC幹部でさえ、ホイッスルを首からぶら下げ、大衆と一緒に暫定政権打倒のデモ行進に加わるパイブンの参加を断ることができなかった。憲法裁判所がインラックに失職の判決を下した際には、ステープ・トゥアクスバンPDRC事務局長との連絡調整役として、スラチャイ・リアンブンルートチャイ上院議長代行と「第7条首相」発動への道を開くために、応接室で協議する役割を果たした。
それ故、(クーデターによる)権力の掌握が成功した後には、パイブンが国家改革会議議員として任命され、さらにボーウォンサック・ウワンノーの憲法起草委員会36人の中の1人に選ばれたことは、不思議ではなかった。国家改革会議の役割が終了し、国家改革推進会議には任命されなかったものの、未だその役割は大きい。パイブンは、マノー・ラオワニット医師と共に、パクナーム・パーシチャルン寺院の(ベンツ高級)クラッシックカーの脱税問題を追及し、ソムデット・チュアン最高僧正代行の最高僧正昇格を妨害し、現在まで続く問題を生じさせている。またタンマガーイ寺院指導者のタンマチャヨー師の僧籍剥奪、刑事事件での立件手続きを進めるように追及し、「出頭命令」を発出させ、さらには「逮捕状」まで発出させることに成功し、タンマガーイ寺院内部への立ち入り捜査にまで踏み込ませようとしている。
ここまで明確な実績があるのに、なぜパイブンは、他の(元上院の)人々と同様に憲法草案の移行過程条項に従って、上院議員に選出されることを容認せず、新たな動きを示し始めたのであろうか。それどころか、政党設立を準備していることを社会に対して、はっきりと示し、もし、同政党が下院議員に選出される場合には、プラユット首相兼NCPO議長の首相続投を支援すると明言している。その理由は、追加質問に賛成した1000万人の国民が自分と同様に、プラユットが首相に就任するべきであると考えている自信があるからである。
当然ながら、(選挙になれば)パイブンの名声を国民の一部が支援するだろうが、憲法の中身がより重要であることを忘れてはならない。追加質問が盛り込まれて修正された憲法には、250人の上院議員が首相選出の投票に参加することになる。首相候補は、選挙前に各政党が作成した3名以内の首相候補リストの中の人物である必要がある。このリストの中の人物は、選挙に立候補している必要はない。しかし、もし各政党のリストの中の候補者から首相を選出することが出来ない場合には、下院議員の過半数の賛成を以て、国会議長に対して、政党が事前に提示していたリスト以外の人物を首相に就任させる例外規定の適用を申請することが出来る。
パイブンによる提案は、政治的にはジョークであるように見られている。なぜなら、各政党による首相候補リストは、下院総議席数の5%を獲得した政党のリストのみに限られ、つまり、25人以上の下院議員を要する政党である必要があり、それは「国民改革党」には獲得が難しい数字であるからである。しかし、憲法規定によって、「正義団結党」(注:1991年のスチンダー陸軍大将によるクーデター後に結成された軍による受け皿政党)の過去のモデルも非議員首相の選出のためには使えない中では、もし各政党による首相候補者リストの中から首相が選出出来なかった際の一つの選択肢として、この政党は使えるのかもしれない。