トンナムのタイ政治経済研究室

タイ政治の解説、分析などを中心としたタイ研究の専門家によるブログです。

2017年05月

プラユット首相の選挙延期意図に関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、「トゥー兄貴の4つの質問、選挙を潰すことを狙う」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 NCPOによるこれまで3年間の行政運営は、少なくとも3回、選挙実施延期を狙ってきた。1回目は、2015年の国家改革会議(NRC)での憲法草案の審議に際してであり、20人のNRC議員が憲法草案の採否に係る国民投票の際に、追加質問として、「憲法公布施行後に2年間改革を実施してから総選挙を実施する」とNRC総会に提案をしてきたことである。その時には、ボーヴォンサック憲法起草委員会(CDC)委員長による憲法草案がNRC総会で否決されたため、同追加質問についてNRCで実際に検討されることはなかった。2014年暫定憲法の規定により、憲法草案が否決された場合には、その場でNRC議員達が失職となったからであった。ともかく、憲法草案の否決によって新しく憲法草案を起案し直さなければならず、間接的に総選挙の実施時期を延期にさせることになった。

 2回目は、クーデターから3周年に当たる5月22日のプラモンクットクラオ陸軍病院での爆弾事件の直後での意見表明であった。プラユット首相兼NCPO議長は、まだ国家が静寂にならないのであれば、どうやって総選挙を実施するのだと意見表明をした。「皆さんに考えてもらいたい重要な点は、これまでの問題と同じように、爆弾を仕掛けられたり、兵器を使用したりし、国民同士の対立を深めるような、国家がこのような状態であれば、総選挙を実施することが出来るのであろうかということである。私は実施に向けて設定するだけであり、皆が協力する必要がある。目的地に一緒に向かうためには、政府に全てのことを設定させてはならない」5月23日の発言である。

 3回目は、テレビ番組「国王の科学:持続的な開発に向かう」の中で総選挙の延期にに直接的に言及することなく、国民に対して総選挙実施に向けて準備が出来ているかどうかという質問を投げかけたことであった。プラユット首相による4項目の質問は以下の通りであった。
(1)あなたは、次の総選挙後に統治(ガバナンス)が出来る政府が成立すると思いますか。
(2)もし、(ガバナンスが)出来ないのであれば、どうしますか。
(3)総選挙の実施は民主主義の中の重要な一部です。ただし、総選挙の実施だけにこだわり、国家の将来とその他のこと、例えば国家が戦略を持ち、国家改革を実施するかどうかということを考えないことが正しいのだろうか。
(4)あなたは、あらゆるケースで不適切な行為をする政治家に再び総選挙に出馬する機会を与えるべきと考えますか。もし再び機会を与えるべきであれば、再び問題が生じることになるが、誰に解決させるのですか。またどういう方法で解決しますか。

 以上の4項目の質問は、政府によるテレビ番組の一斉放送を通じた呼びかけであることからも明らかなように、首相が国民に対するメッセージ伝達を意図したものである。マスコミ記者からのインタビューに答えたものではない。これは、NCPOの総選挙の実施延期の意図を反映したものである。

 NCPOによる総選挙(延期)の正当性は十分であろうか。その回答は、「政治的」な正当性のみ十分というものである。なぜなら、法的な正当性としては、NCPOに総選挙実施を反故にするようなことを認めておらず、2017年憲法が公布・施行されたため、手続きの変更は、憲法の規定に沿わなくてはならなくなった。(このため)法的正当性によってNCPOを支援することが出来ないのであれば、政治家を貶めて、総選挙実施延期のための政治的正当性を探さなければならない。これまで政治家の社会的価値はある程度低かったことは否定できない。(政治家が)自分以外に誰にも責を帰すことが出来ないこともあった。(このため)権力の恣意的な執行、民主主義ルールの破壊、対立の煽動などを理由に軍が権力を掌握してきた。2006年クーデターであろうと、2014年クーデターであろうと、そのような同じ理由によって生じたものである。

 政治家の正当性が低いことは、選挙で選出されていない政権に国家運営を任せる正当性を与えることになる。仕事の効率性に関して疑問を投げかけられても、総選挙が実施されない期間中、いかなる色の政治グループも道路を封鎖して、デモ行為を行うことが出来ないことが確実に保証されている。(軍政は)国家の静寂と引き替えに政権の座に留まり続けることを要求しているかのようである。

 (プラユット発言により)これまで設定してきたロードマップ通りには総選挙を実施したくないというNCPOの政治思想が明らかになったのである。しかし、NCPOは、法的にはそれが不可能であることを熟知している。そのために国民による政治家への不信感を「テコ」にしているのである。今後の状況については、内務省が国民の意見を集約した後、NCPOがどのように動くのかを注目していかなければならない。自らの掌中にある特別な権力を行使して、総選挙の実施を無期限に延長させる可能性があるからである。

政党の選挙実施までの態度に関する評論記事

マティチョンは、「我慢して待つ、政党、政治家はNCPOを待つ」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 憲法付属法の政党法と選挙管理委員会法の制定は遅延しそうな傾向がみられており、総選挙の実施時期は延期になるかもしれないが、これに対して、ソムサック・プリサナーナンタクン(注:タイ国民発展党幹部)は、「もし急いで法律だけを制定したとしても、社会が前進しないのであれば、政治家も喜んで(時が来るのを)待つ。既に3年も待ったのであるから、これより少し待つことになっても問題はない」と述べた。考察に値する興味深い発言である。

 NCPO、政府、それらの「太鼓持ち連中」(クン・ホイ、クン・ホーン)からは、揃って、政治家は選挙の実施を望んでいるからであるとの内容を発言している。NCPOと政府を批判するのは、人々に忘れられないようにするためである。しかし、ソムサック氏の発言は、タイ貢献党、民主党の他の政治家達の発言と類似しているので、興味深い。要するに「これまで待ってきたので、これからも待つことができる」というものである。 

 実際のところ、1958年10月のクーデター以降、(選挙実施を)長期間待たされた経験を有した政治家は少なくない。同クーデター後、総選挙が実施されたのは10年後であった。1971年11月のクーデターは、約4年後の1975年4月に総選挙が実施された。1976年10月のクーデターの際には、(選挙まで)3年間待たされた。1991年2月のクーデタは、1年間待たされて総選挙を実施して、1992年の「暴虐の5月」事件を招いた。2006年9月のクーデターの際には、(選挙まで)1年待たされた。従ってソムサック氏の発言は、理解できるものである。しかし、NCPO、政府、「太鼓持ち連中」には理解できるだろうか。

 タイ貢献党であろうと民主党であろうとタイ国民発展党であろうと、政治家が待機するということは、「硬直痙攣してダウン」(ンゴーゴーンゴーキン)しているに等しいのである。しかし、チャトゥロン・チャイセーン(タイ貢献党幹部)、アピシット・ウェーチャチワ(民主党党首)、ソムサック・プリサナーナンタクン(タイ国民発展党幹部)の職務を見てみると、全く「硬直痙攣してダウン」とはいえない。訴訟を抱えていようと、旅券を没収されようと、チャトゥロン氏がライバル勢力に屈服しているだろうか。常に政治家の立場として、役割を示そうとしている。アピシット氏もソムサック氏も同様である。同時に、この待機期間中には、彼ら政治家は、NCPOと軍政「5つの河」に対して、政府として、行政運営者として全力で役割を示す機会を与えてきた。問題は、これまでの3年間の成果が素晴らしかったかどうかである。もし素晴らしかったのであれば、2014年5月からのNCPOの国家運営が国民の希望と一致していたということであり、今後5年間政権に居座り続けたとしても誰も何も反対はしないであろう。しかし成果がその反対であれば、各自が自分勝手にバラバラに逃げざるを得なくなるだろう。

 タイ貢献党であろうと、民主党であろうと、タイ国民発展党であろうと、政治家達は、クリアンサック・チャマナン陸軍大将(首相)やスチンダー・クラープラユーン陸軍大将(首相)などが辿った運命を見た経験があり、それからの教訓を得ている。だから彼らは、冷静に待つことが出来るのである。

民主党とPDRCに関する評論記事

マティチョンは、「政治の激震、ステープのPDRCが民主党に影響を及ぼす」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 プラユット首相に首相の職を今後4-5年続けて欲しいと、ステープ・トゥアクスバンは、支援表明に等しい「個人」としての意見表明を行った。もし「個人」の意見表明であるなら、なぜ、それがニュースになるのかという疑問が生じる。もし「個人」の意見表明であるなら、なぜターウォン・セーニアム(元内務副大臣・PDRC幹部)が表に出てきて、ステープがそのように考える理由を説明したのかという疑問が生じる。もし「個人」の意見表明であるなら、なぜ一部の民主党員からの反応があったのかという疑問が生じる。民主党員の反応は、ターウォンと比較して(ステープ発言を)それほど重視しているようではないが、この反応は、ステープの意志によって、民主党が激震することになるという彼らの不安を反映したものである。そのため、アピシット党首は、自らが党を指導し、選挙に勝利して、首相の座は他の誰でもなく、アピシットのものであるとの自信を表明する必要が生じたのである。

 ステープによる意見表明は、それは「個人」のものであると同時にステープの政治的立場の表明でもある。従って、党幹事長まで経験した彼の意見表明は影響を与えることになるのである。党幹事長職は、政治上の戦術を策定する。2007年12月の総選挙で第1党になれなかった民主党の党首を2008年12月には首相に就任させた実績がある。1997年11月当時、サナン・カチョンプラサート陸軍少将が民主党幹事長として、チュアン・リークパイ党首を首相に就任させたのと同じである。従って、ステープの発言には、「重み」があるのである。広く政界に対して重みがあるいうだけでない。ステープは既に離党しており、民主党との関係はないことを表明していても、民主党内に深く影響を与えるのである。「人の評判、樹木の影」(注:中国の諺で「人には良きにつけ、悪しきにつけ、評判が付いて回る。それは樹木に必ず影が出来るようなものだ」)

 実際のところ、アピシット党首の意見表明は、PDRCの幹部達にとって問題はないものであり、彼らは、民主党に復帰する用意が出来ている。これは、民主党の方向性を明確に示している。2013年10月からのPDRCの役割は、2014年5月のクーデターに向けた方向性と条件を整えた重要なものであった。そのクーデターについて、タイ社会は、その意図と成果に疑念を持ち始めた。アピシット党首がステープのカリスマ性の下にあるPDRC幹部達の民主党復帰を容認しているということは、移行期の今後4-5年間はプラユット首相の続投を支持しているという真実の方向性を示している。民主党の政治問題は、鋭く尖ったものである。なぜなら、もしアピシット党首がステープの示した方向性を認めてしまえば、自分自身の役割と意味を否定し、NCPO、プラユット政権の一部として付属品扱いにされてしまうことに等しくなってしまうからである。

 もしNCPOによるクーデターと3年間の行政運営が目立った成果を上げていれば、プラユット首相の続投を支持表明したとしても問題は生じていなかったであろう。しかし、クーデターに関する疑問が生じ、より不信感が広がり、NCPO政権の成果についての疑問が生じ、より不透明感が広がっている。プラユットへの支持表明をすることは、通常よりも「疲れる」ことなのである。

NRSAに関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、「NRSA、NCPOの歓心を買って、新しい座席を確保するため、最後の機会に急いで業績を出す」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 NCPOのロードマップの行程は、選挙の実施に向けたルール設定し、最終目的地である「改革」及び「国民和解」の実現に向けて前進させるため、様々なメカニズムを支える基礎を決める重要なターニングポイントにまで前進してきた。国家改革推進会議(NRSA)が、任期満了前の最終コーナーに差し掛かったこの時期に急いで「改革計画」を提案したり、関連法案を起案してプラユット首相に提出したり、業績を生み出そうとしていることは、不思議なことではない。

 興味深いことにNRSAの各委員会による提案は、直接的であれ、間接的であれ、NCPOの望んでいることに一致しており、望み通りに動いて、NCPOの歓心を買おうとしているかのように見える。最近では、カニット空軍大将を委員長とするNRSAのマスメディア分野国家改革推進委員会は、SNS上のメディアの規制のためにサイバーセキュリティー法案を提案してきた。現在、この法案が国民の権利を侵害するのではないかと大きな問題となっている。これは、NCPO政権が継続的に努力してきたことの延長であると見ることができる。政権は、これまでもインターネットの調査と管理のため、シングルゲートウェイを導入しようとして反発を買って延期せざるを得なくなったことがある。これまでにも同委員会は、「メディア職業人の自由権擁護、道徳倫理規範推進法」、通称「メディア管理法」を提案して論議を巻き起こしことがある。同法案は、大きな反発に直面し、同委員会は、メディアの自由権を侵害することになるメディア登録制度、罰則などの一部の内容を修正することを認めざるを得なかった。

 NRSAの政治分野国家改革委員会も大差ないことをしている。同委員会は、民主主義制度下の政治文化を理解させ、青少年を啓発するための政治学校の創設を提案し、政治職にある者の政治文化創造に関する法律を提案している。また、「恩赦」の直接的な提案をしていないものの、政治集会による被害者への救済を進めつつ、刑法第112条の不敬罪違反者と治安関係事件を除いた刑事事件の被告に対しては、デモを煽動して混乱を生じさせないことを取引材料として、執行猶予処分、不起訴処分、減刑処分にする機会を与えることを提案している。

 先日、ティンナパン・ナカタNRSA議長は、プラユット首相に対して、4月6日より新憲法に継続されている暫定憲法第44条の強権を発動し、国家改革に関する27議題36法の施行を提案する書簡を提出した。それらの法律とは、例えば、「民主主義制度下の政治文化促進法」、「司法手続改革法」、「健康管理法」、「土地銀行設置法」、「国家教育法」、「生涯教育関連法」、「サイバーセキュリティー法」などである。現在になって急いで進められている動きのジグゾーパズルが組み合わされて、全体が見えてくる。

 他方では、任期満了に近づいてきたNRSA議員達がNCPOに気に入られるように業績作りを急いでいるということを反映しているのである。彼らは、5年任期で首相選出の権限も持つ上院議員や国家戦略委員会や改革委員会の作業チームなど法律に規定された次のポストを割り当てられることを期待しているのである。

 国家改革会議(NRC)の任期満了前、つまりボーヴォンサック・ウワンノー起草委員長版憲法草案を承認するか否認するかの採決を取る前の時期と同じような状況である。その頃には、NRC議員達の一部は、得点稼ぎのために急いで動き出し、その多くの議員がその後NRSA議員に任命された。以前、NRSA政治改革委員会が内務省に選挙の実施の補助をさせることを提案したが、その際には、二ピット・イントラソムバット民主党副党首に「こいつらは猟官運動をしているのか」と馬鹿にされている。任命権は、NCPOが握っているのであるから、今後、NRSA議員達が競い合って、急いで業績作りに奔走することがみられるだろう。

経済閣僚改造の噂に関する評論記事

マティチョンは、「経済閣僚改造の噂が放たれ、弱点に浸透する」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 2014年のクーデターから3周年を迎える1週間前に差し掛かって、内閣改造が実施されるとの噂が流されている。経済閣僚の入れ替えを強調した噂が風に乗って流れているが、政府はあまりその噂に関心を持っていないようである。改造のターゲットと噂されている閣僚でさえも特に気にすることなく普通に振る舞っている。この噂は、「内部」から流されたものであるとみられている。NCPO政権は、(そのような噂は、)政府とNCPOに悪意を抱くグループによる信用の失墜を意図したものであると何度も主張している。もし、それが真実であるなら、流出した噂は、計画的でシステム的なものであると見られる。重要なことは、内部の「弱点」を突いていることである。

 特に2017年に差し掛かってからより深刻になっていて、これまでも継続的に見られる弱点とは何かと問われれば、それは明確に「経済」であると答えることができる。「悪いニュース」が「良いニュース」の数を上回っており、政府は、現在の経済状況を大いに懸念している。世論調査の「スワンドゥシットポール」であろうと、「クルンテープポール」であろうと、経済問題が一番の心配の種となっていることを示している。もし経済問題の解決が出来なければ、NCPOと政権への支持率は、急落することになる。

 2014年5月のクーデターから、3周年を迎え、4年目に突入しようとしていることが、よりクーデター政権のイメージをプラスよりは、マイナスに向かわせている。重要なことは、実際に経済運営を失敗しているということである。

 どのような要因が経済閣僚改造の可能性を強めているのだろうか。そして、どのような要因が農業協同組合大臣のポストの改造が名指しされる理由となっているのであろうか。それは、(プラユット首相との)「直通」である。商務大臣のポストであろうと、農業協同組合大臣のポストであろうと、チャチャイ・サリガラヤ陸軍大将は、「直通」の人物であり、経済担当副首相であっても、蹴り出すことは出来ないのである。MRプリディヤトーン・テーワクンが経済担当副首相であった時期であろうと、ソムキット・チャトゥシーピタックに交代してからも、少なくとも2つの大きく、重要な省は、経済担当副首相でさえ、「お願い」をするだけであり、内部に干渉することは出来ないのである。

 その省とは、農業協同組合省と運輸省である。プリディヤトーン副首相の時期には、農業協同組合省は、(経済担当副首相の)監督下となっていた。しかし、ソムキット副首相の時期になってからは、同省は、「直通」に変わってしまったのである。これが2014年クーデター時点から継続している運営の問題である。

 最終的に流出した噂は、不発弾になるかもしれないし、本当に内閣改造を導く結果になるかもしれないが、いずれにせよ政府は、最後のルートに差し掛かろうとしている。仮に内閣改造があったとしても、最後の一回であろう。選挙ムードが近づくほどに政治はより「濃厚」になっていく。「濃厚」というのは、NCPOと政府は、政治の「標的」にされることになるという意味である。

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