トンナムのタイ政治経済研究室

タイ政治の解説、分析などを中心としたタイ研究の専門家によるブログです。

2017年02月

反政府デモ発生に関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、「NCPOの権力の終盤、反政府デモ隊が続々と現れる」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 現在の国家状況は、NCPOの権力に挑む動きがある程度生じており、これによる動揺が見られる。まず、それは、タンマガーイ寺院のデモ隊から始まった。この動きは、直接的な政治デモではないものの、暫定憲法第44条に基づく強権発動での警察隊による捜索が僧侶達や信者達の反発によって追い払われたことで、NCPOに少なからず恥をかかせている。

 忘れてはならないことに、これまでに公共に流されたイメージは以下のようなものである。警察及び法務省特別捜査局(DSI)の職員がタンマチャヨー住職の身柄を捜索するために寺院内に侵入したものの、期待していた通りに住職の身柄が見つからず、当局は、第44条の発動により、全ての僧侶・信者を寺院外に退去させようとした。この行為により、タンマガーイ寺院の支持者を結集させ、当局への反発を生み出すことになった。そして、当局は、衝突を避けるために後退せざるを得なくなった。タンマガーイ寺院の僧侶と信者達は、NCPOに本気の平手打ちを喰らわせたようなものである。なぜなら、この出来事により、タイ社会は、暫定憲法第44条の強権が全く意味の無いものであると思ったからである。

 タンマガーイ寺院以外に新民主主義運動(NDM)による興味深い動きもある。NDM指導者のランシマン・ローム氏は、2月19日に開かれた記者会見の際に、政府は今年8月中に総選挙を実施しなければならない、さもなければ、NCPO政権に圧力をかけるためのデモを実施すると主張した。「NCPO政権は、選挙を実施すると約束していた。国民投票の実施後にも同じように何度も今年中に選挙を実施すると言っていた。少なくない数の国民が国民投票の際に今年中に総選挙を実施して欲しいがために憲法草案に賛成票を投じたと思っている。これ以上政府を信用することなど出来ない」とランシマン氏は述べた。NDMは、クーデターの発生時からNCPOと常に対立を続けてきたもう一つの政治グループである。NCPOは、NDMに対して思うがままにデモ活動をさせないようにするため、これまで何度も強権を行使してきた。

 クラビー県石炭発電所建設計画反対運動グループの動きもある。政府が再度の環境影響評価、健康影響評価を実施し、その結果を待つことを決定したため、現在は、反対派は、デモ集会を一旦停止したものの、問題そのものが解消したわけではない。もし政府が再度建設計画を再開しようとすれば、反対派は、「公共集会法」違反など全く気にもせず、再度首相府前でのデモ集会を再開させることになる。

 現在生じている事象は、政府に重要な合図を送っているといえる。なぜなら全ての動きがNCPOの権力の終盤に差し掛かった現在になり同時に一緒に発生しているからである。指摘しておかなければならない点は、NCPOの権力の終盤とは、国民投票を通過した憲法草案の修正版が国王に奏上され、その後に続く期間である。ウィサヌ副首相の説明によれば、「現在、国民投票を通過し、修正を終えた憲法草案を2月17日に国王陛下へ奏上したところであり、現在、承認されるかどうかは国王陛下のご判断による。暫定憲法に記載されているようにその間90日の期間がある」。つまり、NCPOに残された時間は、新憲法が公布・施行されるのを待っている間だけに等しいのである。新憲法が公布・施行されてしまえば、同時に総選挙実施までのプロセスが開始され、NCPOの権力の終焉までのカウントダウンが始まってしまうことを意味する。

 よく知られているように、新憲法が公布・施行されてから240日以内に憲法起草委員会(CDC)が4本の付属法案の起案を終えなければならず、国家立法議会(NLA)が60日以内に検討を終えなければならず、選挙関連の付属法が施行されてから150日以内に総選挙が実施されなければならない。全ての手続きに関する期間は、憲法草案に明確に記載してあり、固定されている。従って、軍政関連機関「5つの河」でさえ、それを破るわけにはいかなくなる。これを計算をすれば、NCPOの権力の残り期間は1年もしくは、それより少し長くても2年には満たない期間に過ぎないことが分かる。このように残り期間が明確になったことが、激しい反政府デモを促す要因となっている。これまでのデモは、全力とは言えないデモであったが、それは、NCPOがいつまで権力の座に留まり続けるのか誰にも分からなかったからである。

 反政府デモを促している要因は、単にNCPOの権力が終盤に差し掛かったことだけではなく、NCPOによる様々な問題解決の為の取り組み、特に経済問題解決のための取り組みが、それほど国民から評価されていないことにも拠っている。各世論調査機関が発表した調査結果でも、国民は政府に経済問題の早期解決を望んでいるという内容で一致していた。これまで説明してきたような諸要因を理解すれば、何故NCPO政権が現在反対デモに直面することになっているのか不思議に思うことはないだろう。今後、NCPO政権が大きな新たな台風をどのように対処していくのか注目していく必要がある。

マレーシアでのBRN関係者の逮捕に関する解説記事

イサラニュースは、マレーシア・ケランタン州内でBRN関係者と思われる人物達が逮捕された事件につき解説記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 1月15日、マレーシア・ケランタン州の警察当局は、タイ側ナラティワート県の対岸のケランタン州パシルマス地域の家屋において爆弾の部品を所持していた容疑者達を逮捕した。 逮捕されたのは6名で押収された物品には、爆弾導火線、バッテリー、爆弾原料各種が含まれていた。マレーシア警察当局は、逮捕された容疑者達はイスラム国(IS)との関係がある可能性があるとみている。

 警察が捜査した村は、パロール、ラヤー、ポホーン、ブーロ、メーアランティーであり、その中の5軒の家屋から①サーユティー・ビンハーロン33歳、②サーイ・ビンアーリー43歳、③サーガーリヤー・ビンヌー40歳、④マロービー・ビンダーミ47歳の4名を逮捕した。彼らは、出生地を示す書類を保持していなかった。その後、当局はグーレーマス村にも捜査を拡大し、1軒の家屋から⑤マロースーディー・ビンマリー50歳、⑥サイプーラオ・ビラニコアブドゥラシス26歳の2名を逮捕した。2名とも出生地を示す書類を保持していなかった。

 上記2カ所の捜索の結果、押収された物品は、化学薬品容器(塩化ナトリウム、過酸化水素、エタノール、硫黄、硝酸カリウム、黄色ワセリン)、プリント基板352枚、電気スイッチ4個、使用可能な集積回路14枚、赤黒銅線9.6メートル、無線機と充電器2セット、双眼鏡1個、ノキア、サムソンなどの安価な携帯電話5個、電子回路に関する書籍1冊であった。

 タイの深南部治安機関の関係者によれば、ケランタン州のパシルマス地域は、タイ深南部国境地域の武装勢力が潜伏し、活動している地域である。これまでにもナラティワート県タークバイ郡での武装勢力の実行メンバーが同地に逃亡して、グレンマス地区のポノ(イスラム学校)に居住しながら、自然国境を通じてタイ・マレーシア間を出入国を繰り返し、タクバイ郡及びスンガイコーロク郡で活動していたことが判明している。グレンマス地区は、マレーシア当局から今回も捜査を受けている。治安当局関係者は、逮捕された6人は、タイ深南部武装グループのネットワークであると思われるが、逮捕された際にマレー名を名乗っており、タイ側が保有するデータベースと照合出来ないと述べた。マレーシア当局が押収した物品は、手製爆弾を準備していたものと思われ、ナラティワート県付近での使用を想定していたと考えられる。

 ある噂によれば、ケランタン州警察当局が逮捕した6人の容疑者の情報は、タイ政府に報告され、タイ側公安警察がマレーシア警察との間で、タイ側に身柄を引き渡しタイで法手続実施するため連絡調整しているという。この6人の一部ないし全員は、BRNのメンバーであり、そのうち一人は、ヤラー県を管轄しているリーダー格であるとの情報がもたらされているからである。今のところ、マレーシア公安側からの反応はない。なぜならマレーシア政府は、本件を大きな出来事であると考えているからである。そのため、これまでに彼らを逮捕したとの発表もしていない。マレーシア治安当局は、イスラム国(IS)との関係も疑っている。またこれ以外に先月、タイ深南部の独立を求める運動をしている指導者とその妻が逮捕されている。彼らは、フィリピンでの活動を支援しており、同じくISとの関係が疑われている。このグループは、マレーシア当局が便宜を図ってタイ政府と和平対話を続けている統括団体(注:マラーパッタニーを指していると思われる)の傘下団体として名前を連ねている。このような理由により、マレーシアの治安にとって非常にセンシティブな問題となっているのである。BRNの幹部達は、マレーシアに居住し、マレーシア公安当局との関係を有しているので、6人の容疑者の身柄釈放に向けて努力をしているが、マレーシア公安当局は回答をせず、BRN側は現在の状況を懸念している。

 タイ深南部治安機関関係者は、タイ国内で法手続を進めるために容疑者達の身柄引き渡しをマレーシア側に要請しても、マレーシアがそれに応じることは難しいと予想している。2009年12月にも大量の爆発物部品や銃弾を所持していたタイ深南部出身の3人の容疑者(中にはタイの裁判所から逮捕状が発付されていた者も含まれる)をケランタン州内で逮捕したが、マレーシア当局は、身柄の引き渡しには応じなかった。その3人は、マーハマシディ・アーリー、マーマコーイリー・スーメー、マユーニット・ジェードーロの3人であり、これらの者は起訴されたが、後にパシルマス裁判所にて公訴が棄却され、釈放されている。

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