トンナムのタイ政治経済研究室

タイ政治の解説、分析などを中心としたタイ研究の専門家によるブログです。

2016年08月

政党解散・再登録に関する評論記事

タイラットは、「セットゼロ・誰が得して、誰が損する」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 憲法起草委員会が240日以内に憲法付属法令10本の検討を終える予定になっているが、その中でも総選挙の実施に必要な4本の法令の起案を先に完了し、国家立法会議に送付し、60日以内に検討を終える予定となっている。その4つの法案とは、下院議員選挙法、上院選出法、政党法、選挙管理委員会法である。

 下院議員選挙法に関しては、特に売買票に関して、立候補者に葬式や結婚式などの各種仏教儀式への寄付を禁じるなど、数多くの提案がなされている。これに対しては、政治家側からは、これらの行為が長くタイ社会で続いている親交のための文化的な行為であるとして反対意見が出ている。これまでの立候補者、政治家が通常に行っていた行為であり、これらは「社会的支出」として考えられてきた。しかし、このような行為は、集票活動と区別することは難しく、むしろ集票活動、買票行為の一部であると見られている。この問題については、よく検討しておく必要があるということに、とりあえずしておこう。

 もう一つ、よく話題になっていながら、未だに明確になっていないことは、憲法起草委員会が政党法を新規に起案し直すのかどうかである。それによって、現在の全ての既存政党が解散され、新規に再度登録し直さなければならなくなる「セット・ゼロ」が実施されるかどうかである。仮に憲法起草委員会が、これを開始すれば、全ての既存政党が新たに登録からやり直しになり、政党名を決め、党員を募集し、党首を決め、役員を決める等々の手続きをしなければならない。当然ながら、全ての政党にとって、有利、不利にならないように平等に最初から登録し直しになる。

 新規に設立される政党には、何の問題にもならないが、古くから設立されている政党は、各政党によって、その影響の幅は異なるが、即時に問題を抱えることになる。特に大きな政党ほど、小さな政党よりも大きな問題を抱えることになる。民主党が最も大きな影響を被る。よって、民主党は、提案が異常であり、政治ゲームに過ぎないと反対をしている。同様に、もう一つの大政党であるタイ貢献党も、これが同党を不利にさせ、NCPOを支援する政党に利益を与えるためのものと見ている。結局のところ、二大政党が最も大きな問題を抱え反対しているが、他方で中小政党は反対をしていない。なぜなら、特に問題にはならないし、それどころか利益の方が大きいからである。

 実際のところ、タイ貢献党にとっては、それほど大きな問題にないだろう。なぜなら、これまでもタイ愛国党から、国民の力党、タイ貢献党へと何度も政党名を変更してきたが、それでも党運営することが可能であったからである。どのような政党名になろうと、タクシンが象徴の政党である。よって、最も問題を抱えるのが最も歴史の古い民主党となる。民主党の象徴である「民主」は、政治家の名前ではない。もし、誰かが自分の政党名に「民主」と名付けて登録しようすれば、問題が生じることになる。

国民投票後の民主党に関する評論記事

マティチョンは、「国民投票後の新しい政治ゲーム、民主党の動きを読む」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 アピシット・ウェーチャチワ(民主党党首・元首相)の声明をターウォン・セー二アム(元内務副大臣・民主党幹部)の声明と比較する際には、「行間」を読まなくてはならない。双方が「民主党内部に対立はない」との「お説法」のような言葉で一致している。ターウォンは、「誰もがPDRCと民主党と分裂すると予想しているが、我々は、未だ緊密な関係であるので、心配しなくて良い。以前のままの民主党らしさのままである」と述べている。しかしながら、「国民投票」は重要である。

 「2007年の国民投票は、賛成が57%、反対が43%であったが、その3ヶ月後には、反対派の(注:タクシン派の国民の力党を意味)政党が選挙に勝利した。国民投票は、その都度、特別な要因がある」とアピシットは、結論づけた。他方、ターウォンは、「集会を続けた204日間以降も、一部の政治家と公務員は、まだ改革に向かおうとしていない。分析し、教訓を活かさなくてはならない。政治家は国民に指示することは出来なくなったのだ」と結論づけた。

 このような国民投票の結果が出ても、民主党内に本当に対立がないのだろうか。外部からのイメージでは、その通りに見えるかもしれない。チャルームチャイ・シーオン元民主党幹事長も、二ピット・イントラソムバット副党首も同じように語っている。しかし、見た目と実際は違うのではないだろうか。少なくとも「客観的な姿」は、投票結果から「賛成」が「反対」より多数であり、政治的に深い意味があったことが覗える。

 バンコク都内であろうと、南部であろうと、ターウォンが指摘したように「政治家は国民に指示することが出来なくなった」という教訓を得た。これは、アピシットのような、チュアン・リークパイ(元民主党党首・元首相)のような、バンヤット・バンタッタン(元民主党党首)のような政治家に問いかけているに等しい。つまり、この投票結果は、(来たるべく)「総選挙」に影響を与えることを意味している。よって、(民主党は)次の総選挙では、(PDRCの主導する)「改革」のプロセスの下で進むしかない。以前のように選挙に向かえなくなったのである。ターウォンのようなPDRCのAランクの幹部からの言葉は、今後の政治の方向を明確に示している。それは、(PDRCは)民主党と緊密であり続け、(関係が)変化することはないことである。だが同時に民主党の性質そのものが、PDRCが主張している「改革」に向かって変化しなくてはならないことを意味する。この要求は、ステープ・トゥアクスバン(PDRC事務局長・元民主党幹事長)が主張したものではないかもしれない。同氏は、既に政治から引退したことを表明しているからである。だが、ターウォンの立場を容認している。なぜならターウォンの背後には、ウィタヤー・ゲオパラダイ、プティポン・プンナカン、イサラ・ソムチャイが控えている。PDRCが新党を設立しようと思っておらず、民主党を利用しようと思っていることを明確に反映しているのである。つまり、民主党の「改革」が中心なのである。

 PDRCとNCPOの関係はアピシットとの関係と比較した場合、どうであろうか。6月24日以降の国民投票期間でのステープの立場表明から、秩序維持センターと一緒に仕事をしていこうとしていることがはっきりしている。従って、NCPOにとって、民主党を操ることは難しくはないのである。

国民投票結果に関する評論記事

マティチョンは、「政治の教訓、8月7日国民投票は誰の勝利だったのか」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 国民投票の結果は、憲法草案に賛成が61.40%、反対が38.60%であった。これが「勝利」であるとすれば、誰の勝利であったのだろうか。同時に38.60%での「敗北」は、誰の、どちら側の敗北であろうか。当然ながら、社会はNCPOの勝利であったと見ている。当然ながら、社会は「政党」の敗北、特にタイ貢献党と民主党の二大政党の敗北であったと見ている。

 そのように見ることもできる。しかし、見逃してはならないことは、賛成61.40%、反対38.60%の数字は、2762万3126人の投票者、つまり全有権者の約54%に過ぎない人々によるものである。これが「国民」を代表しているのである。憲法草案への賛成であろうと、反対であろうと、これ全体が国民である。近い関係であれば、兄弟であったり、遠い関係であれば、同じ県、地方の友人である。この「塊」で再び選挙の舞台で闘うことになる。

 今回の結果について、政治家、運動家、学者から多くの意見が出されているが、その特徴をまとめれば、重要な点は、第1に、国民が「選挙」の実施を望んだこと。第2に、選挙プロセスに進んでいけば、現在の問題と対立が徐々に解消に向かっていくと、国民が希望を持ったことである。換言すれば、「安寧」を望んだということである。

 2014年5月にNCPOがクーデターを決行した際にも、国民が安寧を望んでいたので、反対の勢いは強くはなかった。クーデターにより、対立のイメージが解消されたからである。少なくともバンコクでは、「セーフティーコーン」(注:2014年5月、PDRCのデモがバンコク都内を占拠していた際に集会地区を区切っていたセーフティーコーンに氷の配達をする夫婦が運転する車が衝突し、ドライバーの男性が謝罪したにもかかわらず、デモ隊から暴行を受け、病院に運ばれた事件を隠喩している)のトラブルに巻き込まれることはなくなり、民主記念塔周辺でもジェーンワッタナの政府庁舎付近でも、デモの騒々しい音が聞こえなくなった。NCPOによるクーデターは、国民の要望と一致していたのであった。この要望こそが、クーデターという(権力奪取の)方法が文明的でないことを見えなくさせ、憲法草案に政治家、知識人や学者が心配するような問題があることを国民に感じさせなかった理由であった。よって、賛成の票数が反対を上回ったのであった。

 国民投票の勝利と敗北について検討してみよう。ステープ・トゥアクスバン(PDRC事務局長)は、自らが2014年にクーデター発生に導いた時、また2006年にPAD(黄シャツ)がクーデターを導いた時と同様に、自身が「勝利」したと感じているだろう。しかし、実際はステープの勝利ではない。むしろ反対である。軍を中心に据えた「官僚制国家」(タイ語:ラット・ラーチャカーン)とも言われるタイ社会において、長年に亘って政府をコントロールしてきた政治グループの勝利である。プレム・ティンスラノン陸軍大将(枢密院議長)のイメージを見て欲しい。またプラユット・チャンオーチャー陸軍大将のイメージを見て欲しい。ミーチャイ・ルチュパン(憲法起草委員会委員長)やウィサヌ・クルアガーム(法律担当副首相)が重要な支えとなっている。これが真相である。ステープの役割は、かつてデモ活動していたソンティ・リムトンクン(元PAD代表)の役割と変わりない、単なる「道具」の一つに過ぎない。「官僚制国家」の権力は、とてつもなく強大で強力である。この強大で強力な権力は、脆弱な政党と政治家の上に乗っかっているのである。

 国民投票が可決した後に約10年間続いた問題と対立は終焉を迎えるのであろうか。NCPOによる「官僚制国家」の権力は、より正当性を増し、強化され、安定したことになる。ただし、問題と対立は、即時に解消することはない。対立を生み出した要因がある限り、対立は残り続ける。

NCPO内部の亀裂に関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、NCPOの内部でのプラユット首相とプラウィット副首相兼国防相亀裂に関する評論記事を掲載しているところ、概要以下の通り。

 タイ政治は、国民投票が近づくにつれ、動きが見られるようになり、変わった政治的な意見表明がたびたび見られるようになっている。最近では、スラポン・トーウィチャックチャイクン・タイ貢献党幹部がプラユット首相兼NCPO議長に対して、国民投票が可決しなかった場合には責任を取るように呼びかけている。曰く、「プラユット首相に聞きたい。貴殿は、プラウィット副首相兼国防大臣と首相の職務を交代しようと考えたことはないのか。プラウィット氏が経済チームを率いた方がより良く、国民の生活が良くなるかもしれない。心を寛大にし、「ポム」兄貴(注:プラウィット氏のあだ名)に首相になる機会を与えよう。そうすれば貴殿は熟睡でき、夜中2時驚いて目が覚めることもなくなり、朝から毎日気分を害することもなくなるだろう」。

 プラユット首相に責任を取って辞任を促すことは、別に目新しい動きではない。タイ貢献党は、NCPOが憲法起草委員会を任命したのであるから、NCPOも連帯責任で、憲法草案の国民投票結果の責任を取らなければならないと主張していた。今回の興味深いことは、プラウィット氏にプラユット首相の代わりを務めるように煽っていることである。今回のタイ貢献党による煽りは、政治的には何ら変化を生み出さすものではないが、その目的は、NCPOの内部には、それなりに深い亀裂があることを示すことにあった。

 「ポム」親分と「トゥー」親分(注:プラユット首相のあだ名)は、不可分な程、密接な先輩後輩関係であるが、各政党の大物達は、プラウィット氏と結託しており、この関係がプラユット首相のプラウィット氏への不満となっていることは否定できない。その関係により、重要な職務が妨げられるような影響を受けることがある。

 少し前の時期に、プラユット首相は、暫定憲法第44条の強権を発動し、選出委員会が指名した国家オンブズマンの候補者について、国家立法会議でその人事の承認の採決を取る前に、(全ての独立機関人事を凍結させ)選出人事を停止させた。これはプラウィット氏に政治的に繋がる人物が同組織に関与することを阻止するためであったと言われている。このNCPO内部での先輩後輩の2人の間の亀裂は、ある程度そのサインが見えるものの、NCPOの職務を途中放棄させ、分裂の危機に追い込む程の大きな傷ではない。

 現在、プラウィット氏自身は、ある程度慎重に政治状況を注視している。スラポン氏によるコメントは、インラック前首相の政治的な動きと比較すれば、大して政治状況に影響を与えるわけではないが、プラウィット氏は、これを軽視しなかった。なぜなら、この機会に一部の勢力が(亀裂を)利用して、プラウィット氏がプラユット首相の代わりに首相の座を狙っていると問題を大きくしようとするかもしれないからである。プラウィット氏曰く、「私は首相には適任ではない。プラユット首相が適任である。私は、首相になりたいと思ったことなど全くない。もしプラユットが首相でなければ、自分は仕事を手伝ってはいなかった。そんな馬鹿げた計画は不要である」。このようにインタビューに答えたことは、噂を打ち消すため、「火を消すために木を切り倒した」と言える。大小の諸政党にとって、プラウィット氏の方がプラユット首相よりも話がしやすいこともあり、プラウィット氏に首相就任するように促していることは否定できないことである。

 憲法草案が非議員による首相就任の道を認めていること、NCPOに最初の上院議員選出の権限を認めていることが、「権力の継承」という言説を広める「燃料」となっている。そのため、プラウィット氏は、迷うことなく、急いで、否定し、上記のようなコメントをしなければならなかった。これはタイ貢献党が狙った煽りである。もし、急いで否定することなく、この言説を放置しておけば、プラウィット氏を首相にして権力を継承させることを意図したものだという潮流は、より強くなっていくからである。より広まれば広まるほど、マイナスの影響がでることになる。よって、8月7日の国民投票に影響を与えないためには、最初から火消しをする方が良い。現在は誰も国民投票がどのような結果となるか知らないが、可決されようと、否決されようと政治状況に影響を与える。そのため、NCPOにとっては、今後、政治の大波がやってくる前に、自身を清潔にしておき、できる限りの準備をしておくことが最良の方法となる。

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