トンナムのタイ政治経済研究室

タイ政治の解説、分析などを中心としたタイ研究の専門家によるブログです。

2016年06月

国民投票と20年の国家戦略に関する評論記事

マティチョンは、ソムマイ・パリチャット・マティチョン社副社長による国民投票と憲法草案で規定されている20年の国家戦略に関する評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 ミーチャイ憲法起草委員会委員長は、憲法草案及び追加質問の賛否を問う国民投票に関して以下のようにインタビューに答えた。もし憲法草案が可決されるが追加質問が否決された場合には、元々の憲法草案の通りになる。もし憲法草案も追加質問も可決された場合には、憲法起草委員会が憲法草案の最後の部分を追加質問の内容と一致するように修正する。もし憲法草案が否決され、追加質問が可決された場合には、今回の否決された憲法草案には何も影響を与えないが、国民が追加質問のように望んでいるということを反映し、次回の憲法草案に反映させることになる。

 追加質問は正式には以下のようになっている。「国家戦略に基づいて、持続的に国家改革を進めていくため、国会が最初に開会してから5年間の期間に限り、上下院合同で首相を選出することに、あなたは賛成しますか、反対しますか?」である。つまり、下院議員500人と上院議員250人が一緒に首相を選出するかどうか、ということである。

 国家戦略に基づいて持続して国家改革を進めることが理由として説明されている。それでは、国家戦略はどこからやってくるのか?新しい首相が関与するのか?普通の国民が一緒に検討し、賛成、反対といった決断をするのだろうか?その答えは、まだ分からないままとなっている。

 プラユット政権は、ウィラート・アルンシー陸軍大将・首相秘書官長を委員長とする「20年の国家戦略策定委員会」の設置を6月30日に閣議決定する。同委員会は2つの小委員会を設置する。1つは、チューサック・メークスワン陸軍大将・国家改革推進会議(NRSA)議員を委員長とする「2017年~2036年国家戦略・改革起草小委員会」である。もう一つは、アンポン・キティアンポン内閣事務局長を委員長とする「国家改革計画実行小委員会」である。同委員会は、NCPOが示した11分野と国家改革会議(NRC)が提起した37事業に関する国家戦略を起草する。一方でNRSAは、国家立法会議(NLA)に国家戦略法案を制定させるため、同法案を政府を通じて提出した。これは、憲法草案の規定では、120日以内に国家戦略を策定しなければいけないことになっていることを反映したものである。

 同法案は、国家戦略策定のメカニズムを規定する。それは、政治指導者3人(首相、上院議長、下院議長)の他、様々な分野の専門家など合計25人で構成される「国家戦略委員会」と政府代表、民間代表、市民代表、学者代表、専門家など合計29以下で構成される「国家戦略運営委員会」を設置するというものである。国家戦略法案の通りに2つのレベルでの委員会が設置されるなら、「20年の国家戦略作成委員会」が策定した20年の国家戦略について、「国家戦略委員会」からの承認を得なければならなくなる。「国家戦略委員会」は、総選挙後に選出された首相、上院議長、下院議長など25人で構成されていることになる。問題は、この25人がNCPOの「5つの河」によって規定された20年の国家戦略に関し、賛否を問うこと、修正することが出来るのか、そのためには、どのような方法、メカニズムがありえるのかということである。国家戦略と国家改革を実現するためには、(20年の国家戦略を妨害されないために)枠に嵌め込んでおきたいのである。だから上院が首相を選出できるという追加質問が出てきたのである。

 これまでのことを考えてみると、普通の市場にいるような人々が、国家戦略の策定にどれくらい関与が出来て、国家戦略の賛否の決断が出来るのか、それが何時になるのかも結局はっきりしないままである。今後20年の国家戦略、国家改革も憲法草案の国民投票を決断するのに重要な要素である。

NCPOによる赤シャツへの対応に関する評論記事

ポスト・トゥデイ(オンライン版)は、NCPOによる赤シャツへの対応に関する評論記事を掲載しているところ概要以下のとおり。

 長らく静かになっていた政治状況は、再び激しいモンスーンにより崩れようとしている。NCPOが反対勢力をコントロールしようとして、19日にUDD(赤シャツ)が設置しようとした国民投票不正監視センターを閉鎖するという「劇薬」を使用したからである。

 これまでNCPOがUDDのセンターを閉鎖すれば、全ての騒ぎが終わると予想されていた。しかし実際には、そのようにならず、NCPOは、更に19人のUDD幹部達がセンターの開設に関して記者会見を開いたことが、NCPO2014年7号声明違反に当たる5人以上の集会を実施したと判断し、処罰を求め、犯罪鎮圧局に対して法手続を行った。捜査当局は、UDD幹部に対し、6月30日に出頭するように命令を発出した。

 同センター設置への対応に鑑みると、NCPOによる反対勢力への法律の執行は、元通りになったといえるかもしれない。違反者には1年を超えない禁固、2万バーツを超えない科料もしくはその両方という罰則規定があることを考えれば、これには、それなりに重要な意味がある。

 忘れてはならないのは、UDDがセンターを設置することを発表した頃、プラユット首相は5日のインタビューでは、NCPOは特にセンターの設置に反対しないととれるサインを送っていたことである。

 プラユット首相の見解とプラウィット副首相兼国防大臣の見解は一致してなかった。プラウィット副首相兼国防相は、13日にはセンターの設置は認めないと主張していた。その後、プラユット首相は、18日にメディアへのインタビューでUDDのセンター設置は認めないと述べ、19日には警察当局がセンター開設場所を占拠した。

 再び劇薬を使用するようになった首相の見解の変化は、憲法草案の反対勢力を絶対に制御したいという願望を反映したものである。これまでNCPOは、「思想矯正」の場所を軍事施設から民間施設に変更したり、刑事事件を抱えていない政治家の海外渡航を容認するようになったり、8月7日の国民投票に向けての政治的な緊張を和らげようとしてきた。

 しかし、それでもタイ貢献党、UDDがオンラインメディアを使って憲法草案への反対を表明し続けていることで、NCPOが思っている程には政治状況は良くならなかった。これは、大衆を使って、憲法否決キャンペーンをすることに変わりはない。そのため、NCPOは事態を放置することはできず、法律を使って、タイ貢献党とUDDのキャンペーンを止める必要があった。

 今後の注目は、NCPOが裁判所にUDD幹部達の保釈を取り消すように要求するかどうかである。UDD幹部は、NCPOがその通りにする可能性があると分析している。

 劇薬は、UDDだけでなく、政治活動を行ったとの理由で、タイ貢献党にも解党処分という形で使用されるかもしれない。ただ、それは今すぐという時期ではないだろう。

タイ貢献党解党処分の可能性に関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、「タイ貢献党の解党処分は簡単ではない」と題する評論記事を掲載しているところ概要以下の通り。

 タイ貢献党幹部達が一斉にフェイスブック上で憲法草案の否決を訴えるメッセージを投稿したことに対して、ソムチャイ・シースティヤコン選挙管理委員会(EC)委員が、この行為によってタイ貢献党の解党処分の可能性もあり得ると発言したことで、一挙に政治上の大きな論点となった。「ソ」委員は、「もし、タイ貢献党役員の指揮の下、党の主導によって運動を行っていたことが、調査で証明されれば、仮に国民投票法違反に該当しないとしても、政党に政治活動禁止を命じているNCPO命令違反には該当し、EC委員長は、政党登録人の立場として、政党への処分を求める手続きを実施し、その最高刑は、解党である」と発言した。

 ECが法規の適用を示唆して、タイ貢献党に反発したのは、これが初めてのことである。「ソ」委員の発言は、単なる脅しであろうと本気であろうと、政党が解党処分になるのかどうなのかという疑問が出てきた。現在の特別な状況下では、プラユット首相兼NCPO議長が暫定憲法第44条の強権を握っており、政党解党処分はそれほど困難なことではない。これはウィサヌ副首相の先週の見解とも一致する。「ウィ」副首相は、「NCPOにその権限があるかどうかという質問に答えるならば、第44条に基づくNCPO命令は、何でも出来ることになっている。もし出来ないと答えるなら、それは嘘になる。ただ、それには命令を出さねばならず、その理由も必要である。考えたことをそのまま実行するというわけではない」と述べた。

 つまり第44条によって政党解党処分は可能であるが、容易に実行できるわけではない。なぜなら、その権限はNCPO議長に属するものであり、ECが持っているわけではない。もしECがタイ貢献党の違法行為を認め、解党処分が相応しいと判断しても、NCPO議長がそれに同意しなければ、第44条の強権は行使できず、ECは自前の権限を代わりに行使せざるを得ない。

 ソッシー・サタヤタム元EC委員は、NCPO2014年第57号声明によって、2007年憲法付属政党法の政党解党規定は現在も有効であるとの見解である。もしEC委員長が政党登録人の立場として、タイ貢献党が違法行為を行ったと判断し、その違法行為を証明したら、政党法第94条の規定に従って解党処分になるであろうか。「ソ」委員は、「第94条は、政党解党処分が下される事例について規定している。それは、民主主主義政体を転覆させること、政府の安全を脅かすような行為を行う、選挙での違法行為などである。個人的には、タイ貢献党幹部達の行為が国民投票法違反に該当したとしても、それによって、政党解党の理由にはなり難いと考える」。「もし、本件を法的に処分を下すとすれば、政党ではなく、刑法116条の規定によって個人が処罰されることになり、解党されることは難しいと考える」と述べた。

 同様にセーリー・スワンナパーノン国家改革推進会議・政治改革推進委員会委員長は、「意見表明をしたタイ貢献党幹部の一部が政党役員だとしても、政党解党処分の理由にはなり得ないであろう。NCPO議長がそれが違法であるかどうか判断をしなければならない。個人的には、これはタイ貢献党の政治家個人による意見表明に過ぎないものと考える」と述べた。

赤シャツの動きに関する評論記事

 マティチョンは、赤シャツによる不正監視センター設置の動きに関する評論記事を掲載しているところ、概要以下の通り。

 8月7日の国民投票が近づくほど、「国民投票」という言葉の意味と役割は、複雑になり、逆説的になっている。これまでに国民投票の「中止」という言葉も現れた。ティラチャイ陸軍司令官兼NCPO事務局長からもタウィープ陸軍大将・国家安全保障会議事務局長からもである。「混乱」や「騒乱」という意味も付け加えられた。国民投票を中止にしようとする運動への反発が「思想矯正」のような厳しい対策を必要とすることの理解をもたらしてきた。

 チャトゥポンUDD代表(赤シャツ)とナタウット幹部は、「3つのない(マイ)」というスローガンを掲げた。それは、「中止させない、不正がない、ミャンマーに恥じない」である。「ミャンマーに恥じない」は、2015年11月のミャンマー総選挙のように、国民が地滑り的に投票権を行使することを意味する。

 国民投票に意味が追加されるほど、より事態は複雑になり、逆説的になっていく。特に著しい点は、UDDがスローガンのように国民投票を中止にさせようとする動きに反対をすることである。この動きに反対するUDDの運動が、国民投票を中止させることに向かわせることになる。

 重要なことは、UDD側の自信である。UDDは、憲法草案は国民投票で可決されないという自信を持っている。UDDの自信の根拠は、タイ貢献党の地盤である。2011年7月の総選挙の際には1500万人の国民からの票を集めた実績がある。だからUDDは、「中止させない」というスローガンを掲げたのである。そして第2のスローガン「不正させない」のために国民投票不正監視センターを設置する。

 それでは、第3のスローガン「ミャンマーに恥じない」は、どんな政治的な戦略を反映させたものであろうか。その考えられる答えの一つは、2014年5月のクーデター以降、UDDとタイ貢献党が続けてきた戦術である。つまり、「我慢して待つ」である。UDDは、2009年や2010年のような騒ぎを起こしていない。もう一つの答えとして考えられるのは、UDDが2015年のミャンマー総選挙を研究し、それから教訓を得たということである。アウン・サン・スー・チーが軍事政権に勝利した選挙である。どのような憲法下、選挙法下での選挙であろうと、いずれにせよタイ貢献党が確実に勝利するという自信である。だからUDDは、集会も運動もしない。

 全ての運動は、法律を反映したものであり、合法なものである。「不正監視センター」も軍政による「不正追放憲法草案」に対応させたものである。不正監視センター設置のための運動も国民投票法案に沿ったものである。不正監視センターは、当然ながらUDDの運動であるが、暫定憲法、国民投票法に対応させてあるので、選挙管理委員会のサポートをしているかのように振る舞っている。

国民投票延期の可能性に関する評論記事

 マティチョンは、国民投票延期の可能性に関する評論記事を掲載しているところ、概要以下の通り。

 ジャトゥポン・プロンパンUDD(赤シャツ)代表が8月7日に予定している国民投票が実施されないとの予想を言いだし始めた。他方で二ピット民主党副党首も自信を持って、実施は不可能であると予想している。

 国家オンブズマン事務局がジョーン・ウンパコン氏及びクライサック・ジュンハワン氏、ニラン・ピタックワチラ氏からの申し立てにより、国民投票法第61条が2014年暫定憲法に違反していないかどうか憲法裁の判断に委ねることを決定したからである。

 多くの人は、チャトゥポンUDD代表からだけでなく、NCPO側からも「延期」の声が聞こえてきたことから、投票が実施されないことを予想し始めている。2014年2月2日の総選挙に無効の判断を下した当時国家オンブズマンだったポンペット・ウィチットチョンチャイ(国家立法会議議長)の役割を思い出す。国民投票の実施ははっきりしなくなったように見える。

 ボーウォンサック・ウワンノー憲法起草委員長による前回の憲法草案は、2015年9月の国家改革会議での採決の際にNCPOの命令で否決されたが、その目的は何であったか。その答えは、国民投票を回避することであった。「ボ」委員長が2016年1月に考えた答えは、「“彼”は長くその座に止まりたいのだ」であった。憲法草案を否決すれば、国民投票を回避できると同時に、2014年暫定憲法の規定に従って、新たに憲法起草委員会を任命し、ロードマップを延期することの正当性を担保することになる。それこそが「長くその座に止まりたい」との指摘に対応したものであった。

 しかし、国民投票から逃げることはできない。ミーチャイ・ルチュパン憲法起草委員長による憲法草案も8月7日には国民投票が待っており、それ以外の選択はない。但し、たとえ、いくら「思想矯正」を実施し、マフィアの一掃を実施しようと、また2016年国民投票法によって、「賛成」派の動きを全力で支援し、「反対」派の動きを全力で押さえ込もうとしても、不安定な地盤の上に立っているようなものである。

 国民投票の実施を妨げる障害は、否決される可能性が可決される可能性より高いことである。こうした動きは、2014年2月(の総選挙)にその兆候が現れ、2015年9月(の国家改革会議での否決の際)にはハッキリ現れた。現在、NCPOと政府の権力が不確実な中、不確実性が生じ始めている。国民投票の追加質問、国民投票法第61条の第2項、(タンマガーイ寺院の追及に関する)仏教の管理が落ち着かないこと、これら全ては重荷になり、“逆転状況”を生み出す変数となる。

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