ポストトゥデイ・オンライン版は、「上院選出法案を頓挫させ、総選挙の実施を延期させる隠さないゲーム」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。
国家立法議会(NLA)が、下院議員選挙法、上院議員選出法、政党法、選挙管理委員会法の総選挙の実施に必要な選挙関連の4つの憲法付属法案の全てを可決したにもかかわらず、現在の政治状況は、タイはいつになったら総選挙を実施するのか、という大きな疑問が沸き上がってきている。
そのような疑問が生じる要因の第1は、NCPOからの「要望に応える職人」である憲法起草委員会(CDC)が起案した法案からNLAが内容を修正し、下院選挙法の施行日を公布直後から、公布から90日後に変更したからである。この日程の変更により、総選挙実施までの150日間のカウントダウンに進むはずだったのが、その開始前に90日後ろ倒しにしなければならなくなったのであった。しかし、この90日の期間が過ぎれば、総選挙実施までのカウントダウンを開始することが出来る。現在、NLAは、90日間の延期の理由は、NCPO議長命令2017年第53号による政党法改正と一致させることが軍政「5つの河」に必要であったと説明して納得させようとしているが、あまり国民からの理解を得られてはいない。むしろ国民の多くからは、このような修正が生じた要因はNCPO自身であり、既に政党法が施行されたにもかかわらず、政党の活動を容認したくないからであると見られている。
現在のプラユット首相兼NCPO議長の態度は、「総選挙を実施するとは約束していない」として、1月29日以下のように発言している。「私は約束していない。私は自分の職務を最大限に実行し、ロードマップに沿って行くことを約束しただけである。私はこれまでと同じ約束をしただけである。それが変更になったことなどない。まだ一部のグループが全てを元の状態に戻そうと企んでいるという問題がある。私を取るのか、それとも全てが元に戻ってしまうかを選びなさい」。つまり、プラユット首相は、社会に対して、以前のように政治家による平穏でない民主主義に戻るべきか、それとも完全な民主主義は存在せず、自身がこの先しばらくの期間居座り続けることを望むかと提示して、世論を誘導しようとしているのである。
この状態が長くなるほどに、(NCPO影響下の)各グループは、手持ちのカードを開示し始めて、この国の支配者(タイ語:プーミーアムナート)が未だにこの国を選挙を通じた完全な民主主義となることを容認したくないことを示そうとしている。現在の状況下での総選挙の実施が劣悪な状況を招くことになること指摘しつつ、法制度と政治メカニズムを道具として駆使するのである。現在、支配者の手の中にある(下院選挙法の90日の施行延期という)カードの他に、上院選出法案という強力で重要なカードがもう一枚残されているのである。
なぜ上院法案が重要であるのか、そのように分析をしなければならない理由は、ポンペットNLA議長の態度に拠るものである。同議長は1月29日にインタビューに応じて、同法案がNLAを通過できないとの懸念を示し、以下のように述べている。「私も怖い。(NLA上院法案検討)委員会とCDCが良く話し合わなければならない。彼らは『マイペンライ』と言っているが、実際に良く話し合って、相違点を解消しなければならない」。NLAで上院法案が可決されたが、CDCと選挙管理委員会(EC)が、ECとCDCとNLAで構成される3者委員会を設置することを提案するかどうか、回答を待たなければならない。仮にECかCDCが同法案を気にかけなければ全ての手続きは完了するが、もしそうでなければ、3者委員会を設置して、同法案の条文の中身について検討し、問題箇所の修正をしてからNLAに差し戻し、再度の採決を取らなければならない。
上記の段階でのNLAでの採決は重要である。もしNLAの修正版の同法案への賛成票がNLA議員数の3分の2を下回った場合、つまり249票中の166票の賛成票が得られない場合、同法案は即時廃案となってしまうからである。NLAが否決する可能性があるかどうかと問われれば、可能性があると答えることが出来るだろう。1月26日のNLAでの上院法案の審議の際には、数多くのNLA議員達が上院法案の内容について、議員選出に係る職業グループの分類を15から10に減少させた修正内容に不満を表明し、議論をしていたからである。同法案での上院議員の選出方法について、政治家の介入を防止するような仕組みになっていないと大半の人々が見ており、NCPOは郡レベル、県レベルの選抜をくぐり抜けた200人の候補者の中から50人の上院議員を選出することになっている。NLAの多くの議員達は、国会での審議の際に、同法案の内容では、将来は政治家の介入を受けて選出された上院議員を誕生させることになり、総選挙後の首相の選出の際にも影響が出ること指摘しようとした。
上記のような事情により、3者委員会後の修正版上院法案の変則的な多数決で否決される結果を導くことになるかもしれないのである。もし、そのような事態が生じれば、上院法案がもう一度最初からやり直しに戻ることになり、そのやり直しに関する明確な期限も定められていない。(注:現行憲法第267条の規定によれば、3分の2を下回った場合は「廃案」となるが、「NLAが特別委員会が提案した法律案を承認したものとみなす」とも記載されている。この規定を政治的に解釈し、NLAが国王奏上に回さないなどの可能性があるとみられる。)この国の支配者が満足し、再度上院法が完成するまで総選挙が延期になるのである。従って、下院選挙法の件は、(総選挙実施延期に向けての)単なる最初のステップに過ぎず、本当の重要なステップは、上院法案の廃案なのである。