ポストトゥデイ・オンライン版は、選挙実施要求デモに関する評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。
インラック政権を崩壊させたNCPOによるクーデターから4周年を迎える2018年5月に入ってから、興味深い政治的な動きが少なくとも以下の3つ見られるようになっている。第1に東北部スリン県及びブリーラム県でのプラユット首相の移動閣議の開催である。現政権下で移動閣議は、頻繁に開催されるのでそれ自体は普通のことであり、特に珍しいことではないが、ブリーラム県及びスリン県の開催は、これまで移動閣議では明確に異なる。なぜなら、この地域は、ネーウィン・チットチョープ・タイ名誉党幹部の政治的地盤であり、同党は、プラユット首相の続投を支持する用意があるとの噂が流れているからである。未だに集票活動を開始する時期に差し掛かっていないため、NCPOとタイ名誉党の双方は、同盟を形成しているとの噂を現段階では否定するものの、両者が友好関係にあることを否定することはしていない。
第2にタクシン元首相の動きである。タクシン元首相は、先日、タイに近いシンガポールに滞在していたが、今回はこれまでの滞在とは異なっていた。多数のタイ貢献党の元下院議員がタクシン元首相に面会に訪問したとの報告があり、タクシン元首相は、パーティーを開催する程の規模であった。タイ貢献党元下院議員達とタクシン元首相との面会中において、タクシン元首相は現在の政治状況について、タイ貢献党が再び確実に総選挙で勝利すると評したという。今回の面会は、NCPOが政党設立を準備し、強固な地盤を持つ「A級」の元下院議員達をNCPO陣営に引き抜きを図っているとの噂が流れている中で行われたものである。タイ貢献党所属政治家もその引き抜きのターゲットに含まれている。従って、今回のタクシン元首相が元下院議員達と中華円卓を囲んだことは、タイ貢献党の「流血」を多少和らげる効果があるだろう。
第3に選挙実施要求グループによる集会である。同グループによる象徴的な政治活動は、5月22日まで実施される。直近の集会(5月5日)では、以下の3点の要求事項を掲げていた。①2018年11月までに総選挙を実施する。②NCPOは辞任して政府を暫定政権とする。③軍はNCPO政権を支援することを中止する。彼らは、仮に3つの要求事項に応じない場合は、22日に首相府にデモ行進をすると宣言している。選挙実施要求グループは、政治運動を実施するのに容易ではない困難な状況下において、これまで潮流を生み出すべく、力を蓄積し、支援を続けてきた。そんな選挙実施要求グループの歩みは、現在重要な点に差し掛かってきている。
選挙実施要求グループの要求事項に対し、NCPOは無視する態度をとっている。NCPOは、反対勢力の要求通りに総選挙は確実に実施されるが、単に今年中には実施できないだけに過ぎないとの立場を繰り返し述べ続けている。確かにNCPOの様々な態度は、総選挙を実施する意志があることを反映させている。プラユット首相が様々な地方に行って住民達と対話をしたり、政党設立を許可したり、元下院議員達を口説いたりしている。最近では、NCPOは、総選挙実施を延期するための条件作りをしようとはしなくなっている。
同時に治安関係機関は、デモグループを締め上げようとするよりは、より防御的な役割を重視するようになっている。「一滴の蜂蜜が滴り落ちてくる」(注:取るに足りない僅かな事象が大きな騒ぎにまで発展することの意)状況となることを望まず、集会の実施を容認しながら、選挙要求実施グループが(法的な)権利の範疇を踏み越えるミスを侵すことを待つゲームを進めることを選んだのである。もし彼らがミスをすれば、NCPOは、即時に法律に基づいて対処するのである。NCPOと敵対している政党も(選挙実施要求グループ等)議会外勢力と同じ側に立っているわけではない。なぜなら総選挙を通じて権力を奪還することを目指すルートにシフトしており、彼らにとっては、そちらのルートの方がより望ましいからである。NCPOが平静を保っており、そして政党も(デモの)動きに加わらない状況の中、選挙実施要求グループの運動は、道半ばで打ち棄てられてしまっているのである。従って、5月22日の集会によって(NCPOを)打ち砕き、変化を導こうとすることは、かなり困難なことであると言えるだろう。
総選挙を延期にさせる要素として、憲法付属法の下院議員選挙法案と上院議員選出法案である。これら2法案については、5月23日に憲法裁判所が違憲判断を下す予定になっている。最終的に選挙実施要求グループの運動は、これまでの政治デモのように彼ら自身によって目標を達成することは出来ず、その他の要素に依存していると思われる。それが憲法裁判所の判断である。憲法裁判所が上院選出法案を違憲と判断し、廃案とすれば、総選挙は確実に延期になり、当然ながら、それに対する批判からNCPOが逃れることは難しくなる。だが、もし憲法裁判所がそのような判断が下されなければ、選挙実施要求グループは、(選挙の早期実施ではなく)別の新たなテーマを掲げ新たな運動の方針に転換しなければならなくなるだろう。