ポストトゥデイ・オンライン版は、「NCPOはデモ隊に勝利したが、権力継承は困難」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 NCPOは4年間に亘り賛成と反対を受けながら政治に居座り続けている。当然ながら、「トゥー親分」ことプラユット首相兼NCPO議長その人こそがその賛成と反対の対象である。現在でもプラユットが首相に留まり続けていられるのは、暫定憲法第44条の強権が重要な要素であった。この強権がなければ、プラユット首相は、随分前にでも総選挙の実施を容認していたであろう。

 プラユット首相への反発の潮流は、「選挙実施要求グループ」を名乗る市民政治グループによって、定期的に巻き起こっている。そのグループの活動は、NCPOがクーデターを実行した直後から開始されたものであり、当初より、(反独裁を意味する)3つの指を掲げる活動をバンコク文化芸術センター前(MBK前)で行っていた。幹部のランシマン・ローム氏とジャーニュウ氏と他の初期メンバー達は、NCPOの職務遂行と銃口による権力掌握に対し明確な批判を行っていた。

 当初、NCPOは彼らの活動を無視し、ほとんど政治的な価値のないものと見做し、古い権力者(タクシン派)に関係のある者達であると指摘していた。NCPOがその価値を理解せず、そしてNCPOによる国家運営の成果がそれほど思わしくなかったことも加わり、批判の声が強まってきたため、彼らは時折政治集会のステージを設置し、イベントを開催し、仲間(タイ語:ネオルワム)を創り出すことが出来た。同時に彼らは、国民の自由権だけを要求していたのが、選挙実施要求グループへ変化し、NCPOの権力を国民に返還させるという目的を明確にさせてきた。総選挙実施というテーマを掲げることで一定の成功を収めたが、それはNCPOの関係組織(NLA)が作り出した条件によって、総選挙の実施予定が2018年末から2019年初旬にまで延期になったというNCPO自身による失策も重なったことがある。こうした選挙スケジュールの延期により、選挙実施要求グループの活動は勢いを得て、仲間を増やしてきた。それは集会の度に明らかになってきた。その後間もなく、ラチャダムヌン通りから陸軍司令部までデモ行進を実行できたことが明確な変化であった。その日から現在に至るまで、選挙実施要求グループは、政治的な変革を導くための圧力となり得るとの自信を得たのであった。これが5月22日の集会に至る経緯であった。

 選挙実施要求グループの闘争は、象徴的な成果を生み出そうと努力してきた。それは、4年間のNCPOの政権運営がどのような失敗をしてきたのかを示し、タマサート大学から首相府前デモ行進をすることで影響力をメディアに見せようとするものであった。しかし、選挙実施要求グループのデモ行進は、警察及び治安部隊によって封じられて終了してしまい、タマサート大学前の集会も解散を余儀なくされた。選挙実施要求グループが目的地の首相府まで辿り着けなかった理由は、集会参加者の数が不十分であったためであることは否定しようがない。また配備された警察隊の職務遂行が的確であったということもある。これらの理由によって、長期化するかと思われていた集会は、予想に反して早期に終了に追い込まれたのであった。

 集会が解散となり、幹部が出頭したことで、表面的には、計画通りに強制と法執行を用いた政府側が勝利したように見えるだろう。しかし、5月22日の集会解散宣言は、NCPOの政治的な敗北であったという点を強調しておきたい。選挙実施要求グループは、参加者数など諸要因によって同グループの要求事項に対し、NCPOが応じて目的を達成することが困難であることを本心では理解していた。しかし、同日の集会は、NCPOの国家運営が失敗であったという「言説」(タイ語:ワータカム)を繰り返し、NCPOによる今後の権力継承に反対する潮流を作り出すことを望んでいたのであった。

 それ以上に、国連高等人権弁務官事務所のような国際機関がタイ政府に対して、集会対処に際しての権力行使に関して、以下のような意見表明をするに至ったことは、政府に衝撃を与えるには十分であっただろう。「国連高等弁務官事務所は、運動家の即時釈放を要求する。同事務所は、これまで政治的及び市民的権利に関する国際ルールの加盟国であるタイ政府に対して、継続して表現の自由と平和的な集会の自由を尊重するように要求してきた」。要するにタイ政府は、タイ国内の人権状況が改善したばかりであるのに、世界から人権侵害をしていると再び注目を集めたに等しいのである。さらにそれだけでなく、タイ政府は、再び総選挙の延期が出来ないように首根っこを捕まれたに等しいのである。

 以上のことから、選挙実施要求グループの集会解散は政府の勝利で、反政府グループの敗北というのは誤りであると言える。NCPOの5年目の政権運営は、美しい姿ではなくなるだろう。総選挙後に権力を継承するという計画は、成功しないかもしれないのである。他方でこのまま権力に留まり続けるのも困難である。NCPOは、永遠の敗北状態に陥ったと言えるだろう。