ポストトゥデイ・オンライン版は、「政治家であることを宣言したことは、トゥー親分への軋轢を増す」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 「今日、私は変わらなければならない。なぜなら、私は軍人ではない。分かりますか。以前に軍人であった政治家になったのです。性格は、ある程度軍人であることも残っています。最後は国民次第です。私の国民ではなく、タイ国の国民であり、どのような政党の国民でもありません。タイ市民である皆さんが、グッドガバナンスによる政治を支持しなければなりません」。以上のプラユット首相兼NCPO議長の発言は、さほど不思議な話題ではないが、初めて自分自身を「政治家」と宣言したものである。ちょうど「非議員首相」の就任の噂が明確になろうという時であった。そして先日、プラユット首相は、「今日、国民にとっての人物にならなければならない。どのようなものであろうと、皆が私になって欲しいものであれば、何にだってなることができる」と発言し、繰り返し合図を送った。これは、総選挙後に国民からの支持が得られれば、全力で政治の道へ進むことを宣言したと言えるだろう。

 重要なことは、今後プラユット首相が歩んでいく道は、これまでのようにバラの花びらが撒き散らされたような(優雅な)ものではなく、激しい軋轢と圧力の中を進まなければならないものである。しかも、数々の世論調査機関の結果から支持率、信頼度が凋落していることが明らかであり、なおさら厳しいものである。

 これまでにも首相の「立場」が変わってきた。まずは、クーデターの指導者の時には、自らを対立による行き詰まり状況から国家を脱するための中立的なボランティアと位置づけて、その機会に過去の問題の繰り返しを解消するために国家改革を推進するとしてきた。しかし、プラユット首相が自身を政治家であると宣言したからには、これまでの(ゲームの運営)「委員」の立場から、「プレイヤー」へと立場が変わったことを意味し、他の政治家と平等な扱いを受けるようにルールに従わなければならない。

 プラユット首相は、これまでにも全国の国民に対して「6つの質問」を提起し、自らの人気度を測って、政治の道に全力で進むかどうかを試してきた。「6つの質問」の中の2番目の質問は、プラユット首相が選挙に出馬するわけではないので、NCPOが特定の政党の支持をする権利があるかどうかというものであった。その際には、政党側が先んじて、不適切であり、違法であるとの批判を行った。例えば、ピチャイ・ナリッタパン元エネルギー大臣(タイ貢献党)は、「NCPOは特定政党を支持する権利はあるが、NCPOは政府の権力を握っている立場であり、誰かに罰を与えることも出来る。特定の政党を支持することは、有利と不利を生じさせる。そして違法な形で政府の権力を行使するかもしれない。たとえ首相が選挙に出馬することが出来なくても、憲法はプラユット首相に非議員首相に就任する機会を認めているのであり、利益相反に該当する」と牽制している。

 同様にソムチャイ・シースティヤコン選挙管理委員会(EC)委員は、憲法付属政党法第29条が政党員以外の人物が政党を直接的、間接的に支配乃至思い通りに事業を行わせることを禁じている点及び、下院議員選挙法の第56条が政府職員がその地位を利用して意図的に立候補者や政党に罰を下すことを禁じている点を指摘し、プラユット首相が政治家であることを宣言し、非議員首相として続投することを明確にしたことで、国民から支持を求めることは、違法行為として訴追される可能性があることを提起している。

 憲法や関連法規に規定された様々なメカニズムを利用して、権力の継承を行おうということが再び批難されており、プラユット首相への圧力となっている。NCPOがこれまで実行してきたことの目的は、国家改革や政治を歪ませてきた問題の解決のためではなく、単に総選挙後にも自分が権力の座を継承できるようにするためのシステムを整えてきただけに過ぎないとの批判である。首相の選出に関与することになる上院議員250人に関しても、小選挙区比例代表連動型下院議員選挙方式に関しても、特定の政党が過半数を制する圧勝を絶対に生じさせないためのものであり、国家運営の枠組を策定することになる国家改革委員会、国家戦略委員会にしても、その枠組に(政治家を)従わせるためのものである。この間のNCPOによる権力の行使は、自らの利益のため、もしくは政治的に有利な立場を築くためと解釈されるリスクがある。

 NCPOは、特別な権力の行使と助っ人(トゥアチュアイ)の利用には、政治的な有利不利を生じさせ、自らに利益を与えるためと解釈されないようにし、訴訟を起こされないように慎重にならなくてはならない。また集票活動で混乱を生じさせない形で権限を行使し、選挙結果に影響を与えないように注意を払わなければならない。他方で混乱を企てる人物達が状況を利用して混乱を生じさせないようにもしなければならない。NCPOが総選挙実施に向けて、政党活動を解禁して、政党の集票活動、政治イベントを許可すれば、プラユット首相は、ライバルの政党から激しく批判をされ、NCPOの信頼が揺らぐほどの攻撃を受けることになる。これらが政治家であることを宣言したプラユット首相が直面しなければならないことである。