イサラニュースは、BRNの新戦略に関する評論記事を掲載しているところ概要以下のとおり。

 治安当局の情報で興味深いことは、BRNが戦略を変更したことである。それは、タイ政府との交渉に非公式ながらもDPP(Dewan Pimpinan Parti;Party Leadership Council)と関係のある代表を派遣しただけでなく、仏暦2575年(西暦2032年)までに領土を取り戻し、「パッタニー」を解放するというものである。この戦略は、故マセー・ウセーン元指導者兼銃強奪事件の重要容疑者が提唱した「7段階計画」から変更されたものである。「7段階計画」とは、青少年育成を重視し、治安悪化により諸外国が介入する条件を作り出し、パッタニーの解放を目指すというものである。ただし、この計画の目標期限はとうの昔に過ぎ去ってしまっている。

 新戦略乃至旧戦略の一部かもしれないものは、これまで公表されてこなかった。これは、2013年のインラック政権下でのタイ政府との交渉に加わることになったハッサン・トーイップ指導者の時期から開始されたと思われる。マレーシアが和平対話の仲介者としてBRNに参加を強制したのであるが、そのことにより指導者の多くが「秘匿性」を失って、広く知られることになった。そのことがBRNの立場を深南部でのタイ政府への「対抗者」の実体組織であり、タイ社会と国際社会に要求を掲げて対話する地位へと格上げさせる転換点となった。それまでBRNは、闘争の一形態として「秘密組織」の立場に留まっていた。彼らは、過激なテロ組織のように自身を公表するようなことも、ゲリラ戦争のように地域内の政治運動に干渉するようなこともせず、将来の公表に備えて組織化のための運営を続けていた。 

 BRNの組織構造は、精神的指導者、DPP議長(現在は、ドゥンロ・ウェマノー)、4部門の顧問団(軍事部門、政治部門、経済部門、ウラマー(宗教指導者)部門)、DPP事務局長(現在は、アドゥン・ムニー)で構成されている。DPPは事務局長以外に6つの分野を指揮する6人の指導者で構成される。それは、軍事、青少年、政治、教育、会計、調整の6つの分野である。DPPについて、一部の専門家は、「政治局委員会」を最高組織としている共産党方式の組織形態をしていると分析している。その他、「中央運営委員会」も有し、略語として「DKP」と称され、8分野を運営している。それは、軍事、青少年、会計、広報、教育、女性、行政、調整である。これら全ての分野は、地域での活動実践と結びついている。

 BRNの闘争方針は、第1に戦術としての成果に期待せず、戦略に資するような暴力行為を起こすこと。第2に対立、隠蔽、混乱の状態を発生させ、自分達を信じるように宣伝すること。第3に政治的な世論喚起をし、1960年「国連決議1514号(XV)」、つまり「植民地独立付与宣言」の民族自決権に基づいて領土奪還の機会を生み出す。(パッタニーを植民地の状態であるように思わせることで、自決権を主張して、分離独立の投票をするため。それがBRNがタイ政府を「サイアムの植民地主義者」と呼ぶ理由である。)第4に党員から党費を徴収し、「ザカート」による喜捨を受け入れる。第5に青少年をイスラム教育機関を通じて組織化する。第6に調整と運動である。

 上記の6つの闘争方針は、未だ続けられているが、現在は「タイ政府と交渉する」という方針も加えられている。BRNは、しぶしぶながら2013年から和平対話に加わり、その後には非公式ながら現在も継続中のプラユット政権との和平交渉にも参加している。マスクリー・ハーリーを交渉団長とし、アーワン・ヤーバをマーラーパッタニーの議長とする交渉団の中に少なくとも5人のBRN指導層が加わっている。

 一方でBRNも自らのネットワークを拡大させ、海外での活動を強化しようとしている。昨年には世界20カ国の連絡調整所で会議を開催していた。それらは、イスラム教徒が多数派を占めるASEAN加盟国、中東諸国、アフリカ諸国の他、欧州や北米などのイスラム教徒が多くはない国も含まれる。サウジアラビアで連絡調整会議が開催された際には、タイ政府とマーラーパッタニーとの交渉が成功しようと失敗しようと、タイ政府が和平対話を進めなければならなくなるとし、和平交渉に臨む準備をすることが決められた。

 上記の全てがタイ治安機関が過去13年間の深南部地域の治安情勢で最も重要な役割を果たすと見ているBRNの方針である。現在、タイ政府は、武装勢力、特にマーラーパッタニーとの和平対話を推進していかなければならないと評価している。たとえ治安状況が政府が期待している程に十分に沈静化しないとしても、BRNの多くの指導者が判明するという結果を導いているからである。そして彼らも、タイ政府とマーラーパッタニーとの和平交渉に参加して、暴力行使の停止合意に約束させられた幹部達、実働部隊のRKKと同じように、対話推進を認めざるを得なくなっている。