トンナムのタイ政治経済研究室

タイ政治の解説、分析などを中心としたタイ研究の専門家によるブログです。

2018年05月

クーデター4周年デモに関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、「NCPOはデモ隊に勝利したが、権力継承は困難」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 NCPOは4年間に亘り賛成と反対を受けながら政治に居座り続けている。当然ながら、「トゥー親分」ことプラユット首相兼NCPO議長その人こそがその賛成と反対の対象である。現在でもプラユットが首相に留まり続けていられるのは、暫定憲法第44条の強権が重要な要素であった。この強権がなければ、プラユット首相は、随分前にでも総選挙の実施を容認していたであろう。

 プラユット首相への反発の潮流は、「選挙実施要求グループ」を名乗る市民政治グループによって、定期的に巻き起こっている。そのグループの活動は、NCPOがクーデターを実行した直後から開始されたものであり、当初より、(反独裁を意味する)3つの指を掲げる活動をバンコク文化芸術センター前(MBK前)で行っていた。幹部のランシマン・ローム氏とジャーニュウ氏と他の初期メンバー達は、NCPOの職務遂行と銃口による権力掌握に対し明確な批判を行っていた。

 当初、NCPOは彼らの活動を無視し、ほとんど政治的な価値のないものと見做し、古い権力者(タクシン派)に関係のある者達であると指摘していた。NCPOがその価値を理解せず、そしてNCPOによる国家運営の成果がそれほど思わしくなかったことも加わり、批判の声が強まってきたため、彼らは時折政治集会のステージを設置し、イベントを開催し、仲間(タイ語:ネオルワム)を創り出すことが出来た。同時に彼らは、国民の自由権だけを要求していたのが、選挙実施要求グループへ変化し、NCPOの権力を国民に返還させるという目的を明確にさせてきた。総選挙実施というテーマを掲げることで一定の成功を収めたが、それはNCPOの関係組織(NLA)が作り出した条件によって、総選挙の実施予定が2018年末から2019年初旬にまで延期になったというNCPO自身による失策も重なったことがある。こうした選挙スケジュールの延期により、選挙実施要求グループの活動は勢いを得て、仲間を増やしてきた。それは集会の度に明らかになってきた。その後間もなく、ラチャダムヌン通りから陸軍司令部までデモ行進を実行できたことが明確な変化であった。その日から現在に至るまで、選挙実施要求グループは、政治的な変革を導くための圧力となり得るとの自信を得たのであった。これが5月22日の集会に至る経緯であった。

 選挙実施要求グループの闘争は、象徴的な成果を生み出そうと努力してきた。それは、4年間のNCPOの政権運営がどのような失敗をしてきたのかを示し、タマサート大学から首相府前デモ行進をすることで影響力をメディアに見せようとするものであった。しかし、選挙実施要求グループのデモ行進は、警察及び治安部隊によって封じられて終了してしまい、タマサート大学前の集会も解散を余儀なくされた。選挙実施要求グループが目的地の首相府まで辿り着けなかった理由は、集会参加者の数が不十分であったためであることは否定しようがない。また配備された警察隊の職務遂行が的確であったということもある。これらの理由によって、長期化するかと思われていた集会は、予想に反して早期に終了に追い込まれたのであった。

 集会が解散となり、幹部が出頭したことで、表面的には、計画通りに強制と法執行を用いた政府側が勝利したように見えるだろう。しかし、5月22日の集会解散宣言は、NCPOの政治的な敗北であったという点を強調しておきたい。選挙実施要求グループは、参加者数など諸要因によって同グループの要求事項に対し、NCPOが応じて目的を達成することが困難であることを本心では理解していた。しかし、同日の集会は、NCPOの国家運営が失敗であったという「言説」(タイ語:ワータカム)を繰り返し、NCPOによる今後の権力継承に反対する潮流を作り出すことを望んでいたのであった。

 それ以上に、国連高等人権弁務官事務所のような国際機関がタイ政府に対して、集会対処に際しての権力行使に関して、以下のような意見表明をするに至ったことは、政府に衝撃を与えるには十分であっただろう。「国連高等弁務官事務所は、運動家の即時釈放を要求する。同事務所は、これまで政治的及び市民的権利に関する国際ルールの加盟国であるタイ政府に対して、継続して表現の自由と平和的な集会の自由を尊重するように要求してきた」。要するにタイ政府は、タイ国内の人権状況が改善したばかりであるのに、世界から人権侵害をしていると再び注目を集めたに等しいのである。さらにそれだけでなく、タイ政府は、再び総選挙の延期が出来ないように首根っこを捕まれたに等しいのである。

 以上のことから、選挙実施要求グループの集会解散は政府の勝利で、反政府グループの敗北というのは誤りであると言える。NCPOの5年目の政権運営は、美しい姿ではなくなるだろう。総選挙後に権力を継承するという計画は、成功しないかもしれないのである。他方でこのまま権力に留まり続けるのも困難である。NCPOは、永遠の敗北状態に陥ったと言えるだろう。

タイ貢献党の方針に関する評論記事

マティチョンは、「タイ貢献党は、NCPOを『財産』として放置しておく」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 民主党は、「タクシン体制」と呼ぶモノに対し、打倒の姿勢の旗を掲げているが、他方で、(タクシン元首相が滞在中の)シンガポールから聞こえてくる声のトーンは、まるで民主党を「標的」とは見做していないかのようである。なぜなら現在の民主党は、首相府からの吸引(引き抜き)工作によって、深刻な危篤状態に陥っているからである。4月が過ぎて5月に入り、その吸引力はより強烈になって来ている。この強さがシンガポールでの中華円卓の雰囲気に影響を与えており、NCPOの動きの方を重要な「標的」とするようにさせている。タイ貢献党内では、真実に即して、鮮明で正しい戦略、戦術を策定することに全力を挙げて一生懸命である。

 (タクシン側の)声のトーンは、NCPOが政権の座により長く留まり続けてくれる方がタイ貢献党にとって、より良い結果をもたらすと見ているようだ。要するにタイ貢献党は、NCPOを重要な政治的な「財産」と見做しているのである。NCPOが政権に留まり続けることこそがNCPO自身を傷つけているのである。2014年5月から2018年5月までの政権の成果は、一般の地方民(チャオバーン)にとっては、極めて無残なものであり、当然ながら2001年時点の民主党よりも困難な状況であり、2008年12月に民主党が政権の座に就いた時、また民主党が2011年に解散総選挙を決断した時と同じくらい困難な状況である。

 政権運営の(酷い)「成果」こそが反対勢力にとっての「財産」である。総選挙に向けてのロードマップ通りに迅速に2019年2月に実施されるのかどうかがNCPOとそれに付き従っている政党にとっての激戦地なのであり、全身ずぶ濡れ状態になっているのである。最終的に2019年2月に総選挙が実施されるにしろ、NCPOが総選挙の実施をどれほど遅くまで延期にさせるにしろ、当然ながら、NCPOは「被告」の立場に置かれているのである。

 他方で、タイ貢献党は、2014年5月のクーデターからの政治状況、そして2017年現行憲法の施行までの状況を明瞭に批判することが出来るのである。(NCPOによる政治家の)引き抜き戦略がより激化していけば、より鮮明に批判できるようになっていく。なぜなら「標的」である政治家達は、以前に(タイ愛国党に)「大きく吸引された」経験を持つからである。彼らがNCPOに仲間として吸い込まれ、同盟が形成される。(タクシン派は)腸の中の隅々まで透けて分かるように全て知っているのである。吸い込みを拡大させていけば、いずれタイ名誉党、国家発展党、中道主義グループ、チャチュンサオ県リムナムグループと続いて、残りは居なくなってしまう。NCPOは全てを自陣に限界になるまで受け入れてしまうことになる。

 NCPOが先に進もうとする全ての動きは、タイ貢献党にとっての政治的な「財産」のようなものである。つまり、美味しい囮の餌のようなものである。タイ貢献党は、分析し、国民に対して明確に真実を明らかにするだけである。タイ貢献党は、明確に批判すればするほど、250人の下院議員獲得に近づくことになる。

選挙実施要求デモに関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、選挙実施要求デモに関する評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 インラック政権を崩壊させたNCPOによるクーデターから4周年を迎える2018年5月に入ってから、興味深い政治的な動きが少なくとも以下の3つ見られるようになっている。第1に東北部スリン県及びブリーラム県でのプラユット首相の移動閣議の開催である。現政権下で移動閣議は、頻繁に開催されるのでそれ自体は普通のことであり、特に珍しいことではないが、ブリーラム県及びスリン県の開催は、これまで移動閣議では明確に異なる。なぜなら、この地域は、ネーウィン・チットチョープ・タイ名誉党幹部の政治的地盤であり、同党は、プラユット首相の続投を支持する用意があるとの噂が流れているからである。未だに集票活動を開始する時期に差し掛かっていないため、NCPOとタイ名誉党の双方は、同盟を形成しているとの噂を現段階では否定するものの、両者が友好関係にあることを否定することはしていない。

 第2にタクシン元首相の動きである。タクシン元首相は、先日、タイに近いシンガポールに滞在していたが、今回はこれまでの滞在とは異なっていた。多数のタイ貢献党の元下院議員がタクシン元首相に面会に訪問したとの報告があり、タクシン元首相は、パーティーを開催する程の規模であった。タイ貢献党元下院議員達とタクシン元首相との面会中において、タクシン元首相は現在の政治状況について、タイ貢献党が再び確実に総選挙で勝利すると評したという。今回の面会は、NCPOが政党設立を準備し、強固な地盤を持つ「A級」の元下院議員達をNCPO陣営に引き抜きを図っているとの噂が流れている中で行われたものである。タイ貢献党所属政治家もその引き抜きのターゲットに含まれている。従って、今回のタクシン元首相が元下院議員達と中華円卓を囲んだことは、タイ貢献党の「流血」を多少和らげる効果があるだろう。

 第3に選挙実施要求グループによる集会である。同グループによる象徴的な政治活動は、5月22日まで実施される。直近の集会(5月5日)では、以下の3点の要求事項を掲げていた。①2018年11月までに総選挙を実施する。②NCPOは辞任して政府を暫定政権とする。③軍はNCPO政権を支援することを中止する。彼らは、仮に3つの要求事項に応じない場合は、22日に首相府にデモ行進をすると宣言している。選挙実施要求グループは、政治運動を実施するのに容易ではない困難な状況下において、これまで潮流を生み出すべく、力を蓄積し、支援を続けてきた。そんな選挙実施要求グループの歩みは、現在重要な点に差し掛かってきている。

 選挙実施要求グループの要求事項に対し、NCPOは無視する態度をとっている。NCPOは、反対勢力の要求通りに総選挙は確実に実施されるが、単に今年中には実施できないだけに過ぎないとの立場を繰り返し述べ続けている。確かにNCPOの様々な態度は、総選挙を実施する意志があることを反映させている。プラユット首相が様々な地方に行って住民達と対話をしたり、政党設立を許可したり、元下院議員達を口説いたりしている。最近では、NCPOは、総選挙実施を延期するための条件作りをしようとはしなくなっている。

 同時に治安関係機関は、デモグループを締め上げようとするよりは、より防御的な役割を重視するようになっている。「一滴の蜂蜜が滴り落ちてくる」(注:取るに足りない僅かな事象が大きな騒ぎにまで発展することの意)状況となることを望まず、集会の実施を容認しながら、選挙要求実施グループが(法的な)権利の範疇を踏み越えるミスを侵すことを待つゲームを進めることを選んだのである。もし彼らがミスをすれば、NCPOは、即時に法律に基づいて対処するのである。NCPOと敵対している政党も(選挙実施要求グループ等)議会外勢力と同じ側に立っているわけではない。なぜなら総選挙を通じて権力を奪還することを目指すルートにシフトしており、彼らにとっては、そちらのルートの方がより望ましいからである。NCPOが平静を保っており、そして政党も(デモの)動きに加わらない状況の中、選挙実施要求グループの運動は、道半ばで打ち棄てられてしまっているのである。従って、5月22日の集会によって(NCPOを)打ち砕き、変化を導こうとすることは、かなり困難なことであると言えるだろう。

 総選挙を延期にさせる要素として、憲法付属法の下院議員選挙法案と上院議員選出法案である。これら2法案については、5月23日に憲法裁判所が違憲判断を下す予定になっている。最終的に選挙実施要求グループの運動は、これまでの政治デモのように彼ら自身によって目標を達成することは出来ず、その他の要素に依存していると思われる。それが憲法裁判所の判断である。憲法裁判所が上院選出法案を違憲と判断し、廃案とすれば、総選挙は確実に延期になり、当然ながら、それに対する批判からNCPOが逃れることは難しくなる。だが、もし憲法裁判所がそのような判断が下されなければ、選挙実施要求グループは、(選挙の早期実施ではなく)別の新たなテーマを掲げ新たな運動の方針に転換しなければならなくなるだろう。

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