トンナムのタイ政治経済研究室

タイ政治の解説、分析などを中心としたタイ研究の専門家によるブログです。

2018年02月

ティラキアットのプラウィット副首相批判に関する評論記事

マティチョンは、「ロンドンの音声クリップはウィン・ウィンの結果に。誰にとってのウィン・ウィンか」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 BBCタイが報じたロンドンでのティー医師(ティラキアット教育相)の音声クリップ問題は、スムーズかつ行儀良く片付いたかのようである。ティー医師が「謝罪」の言葉を述べ、今後も教育大臣に残留することになり、誰も閣内から辞任しないことになった。ティー医師が無礼を認め、プラウィット副首相兼国防相がティー医師の謝罪の言葉を容認したことで、誰も「損害」を被らなかった。第5次プラユット内閣から第6次プラユット内閣へ改造しなければならない可能性がなくなり、改造の必要性もなくなった。つまり、全ての関係者にとって「ウィン・ウィン」状況となったのである。

 しかし、ティラキアット医師であろうとプラウィット副首相兼国防相であろうと誰も「損害」を被らなかったというのは真実だろうか。誰にも汚点を残さなかったというのは真実だろうか。ではなぜティー医師に投げかけられたような(辞任しないのかという)質問が出てくるのか、なぜコンチープ国防省報道官は、プラウィット副首相兼国防相が辞任しないことを確認する記者会見を開かなければならなかったのであろうか。それは、ティー医師の発言に拠っている。ティラキアット医師の(音声クリップ内での)発言を要約すれば、(プラウィット副首相兼国防相の)「時計」の問題を例示しながら、政治家の「倫理」に関する繊細な問題に触れていたことが明確であった。プラウィット副首相兼国防相であろうとティラキアット教育相であろうと、辞任しなければどちらも「発言」で言及された批判の対象に該当する。

 BBCタイによって公開された当該音声クリップの詳細を振り返ってみれば、全ての内容が「嘲笑」であったことは明白である。要するに「時計」問題を嘲笑する発言であった。この発言によって、(倫理的に)あるべき行動をとらなかった嘲笑の標的となった人物(プラウィット副首相兼国防相)も損害を被り、(倫理的に望ましい)あるべき行為を実際に行わなかった発言者(ティラキアット教育相)自身も「良いのは口だけ」として、損害を被ったのである。

 今回の両者の間の衝突を中立的な立場からみて、理解しようとすれば、その結果は「成功」であったように見える。何の「成功」であろうか。それは、意見相違や内部対立を反映した問題を単に「無礼」という問題にすり替えて、亀裂を埋めることに成功したことである。これは、より大きな問題を生じさせることで、問題を解消しようということである。

 プラウィット副首相兼国防相の態度は、謝罪を受け入れたことを何も語らないか、または喉が痛いと理由をつけて語ろうとしない。この点については、各自が著しく異なった態度を取っている。プラウィット副首相兼国防相の役割をみても、ティラキアット教育相の役割をみても、(権謀術数の政治対立を描いた著名な中華圏の小説の)「秘曲:笑傲江湖」(タイ語:ユタチャック)の世界のようである。「真の男は、伸びることも縮むことも出来る」(前言を翻して態度を豹変させること)。ここで生じる疑問は、政治的に何のために「伸びることも、縮むことも出来る」ようになるのかである。

デモ対応に関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、「集会封じは混乱の燃料を注ぐこと」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 NCPOを苛立たせる運動を実施したデモ隊に対する法律に則った処置は、NCPO政権にとっての「成功の公式」と呼ぶことができるだろう。先日1月27日にパトゥムワン交差点スカイウォークにおいて実施された集会「選挙実施を求める国民による集い:NCPOによる権力継承への反対の力を示そう」への対処は、「火事が拡大するのを防ぐために木を切り倒す」(タットファイ・テー・トンロム)であった。ブリン陸軍大佐・陸軍司令部付担当官がNCPOから委任され、NCPO法律執行チームのリーダーとして、急いで上記集会を実施した学生及び運動家に対する刑罰を求める告発の手続を実施したことも奇妙なことではない。

 容疑がかけられた7名は、①ランシマン・ローム、②シラウィット・セーリーティワット、③ナッター・マハッタナー、④アーノン・ナムパー、⑤エカチャイ・ホンガンワーン、⑥スクリット・ピアンスワン、⑦ネティウィット・チョーティパットパイサーン、である。容疑は、①NCPO議長命令2015年第3号違反:5人以上の集会禁止、②刑法第116条による煽動罪であり、現在、首都警察パトゥムワン警察署が上記7名に対する出頭命令状を発付し、2月2日に出頭し、捜査当局との面会を命じられている。

 上記のような活動は「観測気球」(ヤン・クラセー)であり、世論を喚起することが出来るかどうか、運動の方向性の人気度を計測するためのものである。2月10日に計画しているラチャダムヌン通りでの集会も結束度を測るためのものである。NCPOは、もし今後このような活動を何も対処せずに放任すれば、継続的に集会を発生させることになりかねず、これが定着し、(国民から)支援されるようになれば、拡大を招いて最後には統制することが困難になると見ている。決心の「堅木」(マイケン)を折ることは、「鶏を潰して猿に見せつける」(チュアットガイ・ハイリンドゥー)ことであり、つまり活動を行った者達を「見せしめ」にして、厳罰から逃げられない恐怖によって、今後に同じ行動を取ることを怖じ気づかせることである。

 重要なことは、集会のリーダー達の多くは、「古傷」を持っていることである。例えば、通称「ジャー・ニュウ」ことシラウィット・セーリーティワット氏は、シンボル的な政治演劇と活動を行って、裁判所の職権を侵害したとの容疑で以前にコンケン県裁判所から禁固6ヶ月の判決が下されているが、再び政治活動を行わないとの条件で執行猶予2年で実刑を免れている。今回の条件違反は、執行猶予中のジャー・ニュウに実刑を受けさせることになるかもしれない。こうしたことにより、NCPOが絶対的権力を手中に掌握している期間中は、古傷を持つ多くの運動家がリーダーになることを怖じ気づかせることになる。既に4年近くになるが、NCPO議長命令により政治集会が封じられているだけでないのである。

 現在の政治の状況と雰囲気は、2014年のクーデター発生直後にタイ社会がNCPOに国家改革、国民和解に向かって進むための機会を与えて期待していた頃とは異なっている。既にNCPOには3年以上の機会を与えてきたが、未だにタイを問題の循環状況から脱する方向に導けたとは思われていない。単に総選挙の実施を延期させる合図が継続的に発せられているだけであり、権力の座に居る期間を引き延ばそうとしていると批判に晒されている。

 国民の平和的な運動を封じ込めるために権力を行使することは、「ブーメラン」のようにNCPOが予想していなかったような圧力を自身に加えることになるかもしれない。それは第1に、今回の政治集会で要求している目標は、今年中に総選挙を実施させることである。それは、そもそも政府自身が発表していた日程であり、運動を実施するために十分な理由と正当性があった。諸外国は、NCPOに今年中に総選挙を実施するように要求する活動を十分に正当性があることと見ており、それに合わせ、米国とEUがタイ政府に対して予定通り年内の総選挙実施を要求している。

 第2に、当該活動はNCPO議長命令に影響を及ぼすとはいえ、憲法で保障された表現の自由に基づく権利であり、主権者たる国民の立場として認められるべきものであろう。暴力的な事態が発生しそうになく、治安上の影響がないような状況下で、NCPOが運動を封じ込めるために権力を行使することは、行き過ぎた行為であり不適切であろう。現在、様々なグループがNCPOに対して様々な活動を実施できるようにし、総選挙の実施に向けてNCPO議長命令を解除するように要求している中、NCPO議長命令を適用し、総選挙の実施を要求しているグループの活動を封じ込めようとすることは、NCPOにとっても良くない結果を招くことになる。

 学者ネットワーク「People Go Network」によるバンコクからコンケン県に向けて運動の「友好We Walk」への対処の仕方も同じようなものであった。様々な問題への対処を要求し、解決策を提示しようという学者の人々による活動であるが、彼らは、これまでに支配者へのリスクになるような運動を行っていない。しかし、8人の運動の指導者とネットワーク参加者に対して、当局は刑事処分をすべく告発を行った。その後26人の学者達が、国民の権利に基づく同グループの活動を妨害しないように要求する声明発表を行った。NCPOは、「火事が拡大するのを防ぐために木を切り倒す」ことを選択したので、一滴の蜂蜜を手に入れたが、これは将来に混乱を激化させることになる。

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