ポストトゥデイ・オンライン版は、「バンコク都知事選はNCPOにとってのリスク」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 国政選挙に先立って地方選挙が実施されることは、国政選挙への準備状況、各地の人気度を計測するというNCPO政権からの明確な合図である。特に問題なければ、県行政機構(オーボーチョー)の選挙が2018年中旬に実施される予定である。それまでの間、地方選挙実施に関係する5つの法律の改正手続きを行っている。改正のポイントは、政治職者の資格要件について2017年憲法と合致させることである。しかし、それ以外にも内務省地方自治推進局が提案している改正点がある。それは即ち、現状のタンボン行政機構(オーボート-)の評議会メンバーが当該行政区内の各村(ムーバーン)からの代表2名で構成されているのを予算節約のために代表を1名に削減するというものである。そうすれば、年間47億バーツ、評議会1期4年間で188億バーツの節約になるという。

 スティポン地方自治推進局長の提案は、運営上の便宜を考えて、オーボーチョーとバンコク都を先に実施し、その後しばらくしてから市(テーサバン)とオーボートー、パタヤ特別市の選挙を実施すべしというものである。しかし、実際のところNCPOにとっては、オーボーチョーと同時にバンコク都の選挙を実施することは、リスクがあり、機微なことであり、未だ決断することは難しいのである。要点は以下の3点である。

 第1にバンコクは国家の中心地であり、たとえ地方選挙とはいえ選挙実施を認めれば、各政党及び個人の立候補者が集票活動やその他活動等を全力で実施することを容認しなくてはならない。つまり、NCPOは、NCPO議長命令を改定し、政党活動を解禁し、広範で自由な政治運動を認めるように決断しなくてはならない。もし政治活動の解禁がなければ、バンコク都知事選の結果は、信頼できないものとされ、容認され難いものとなってしまう。さらに他方で、各グループの政治活動を認めてしまえば、意図的なものであるかないかにかかわらず、NCPOが直接的及び間接的な攻撃の標的となることを容認しなければならない。政治的な静寂が続いていたが、それはNCPO政権を攻撃する運動を長らく封じ込めていたからである。それ以外にも武装勢力がこの機会を利用して、大きな混乱状況が生じるように仕掛けてくるかもしれない。

 第2にバンコクは二大政党の勢力が拮抗していることである。民主党が古くから王者を維持しているが、タイ貢献党も負けず劣らずの猛追をしている。長い間政治活動を出来ないように身動きを封じられていたこの二大政党が今回競技場に復帰すれば、激烈な政治状況を生み出すだろう。それは将来の総選挙実施に向けてのリスク要因となる。バンコク都知事の椅子は、今後の総選挙の有利、不利に関わることであり、両政党にとっての戦略的に重要な「楔」(ムット)であるため、その座を奪うためにはどのような手段であろうと用いなくてはならない。選挙結果が国政選挙への心理的影響を与えることにもなるし、都知事の座を得た政党は、国政選挙の際にバンコク都の職権、資源を動員して、バンコク都内から出馬した所属政党の候補者の支援したり、便宜を図ったりすることで有利、不利を生じさせるのである。

 第3に現在のバンコク都知事のアサウィン・クワンムアン警察大将は、NCPOが信頼を置いている人物であり、そのために(前スクムパン都知事の代わりに)2017年10月18日に暫定憲法第44条に基づくNCPO議長命令によって都知事に任命されたのであった。これまでのところバンコク都庁は、NCPO政権の政策に非常に良く従って職務遂行をしており、何も問題が生じていない。従って、急いでこの人物を交代させるべき理由がないのである。二大政党のどちらが勝利して、今後のバンコク都政を司ることになったとしても、どの程度NCPOの指示に従って運営してくれるかという保証はないのである。これから権力の座から下りようとしている政治的な重要な転換期に「手駒」(ムーマイ)の人物を配置しておくことは、将来に問題を生じさせず安心を得るための保証となるので、NCPOにとっての良い選択肢である。その間に仮に何らかの問題が生じたとしても、首相はまだ強権を有しており、以下の場合には、バンコク都知事も副都知事も失職処分を下すことができる。即ち「職位の名誉を損ない、するべき職務を遂行せず、バンコク都、公共、秩序維持、国民の福祉に対して重要な損害を与えたとみられる」場合である。従って、NCPOにとっては、オーボーチョーの選挙を最初に実施し、それからテーサバン、オーボートー、(バンコクを含む)パタヤの様な特別行政地域と順番に選挙を実施していく方が、オーボーチョーとバンコク都選挙を同時に実施するよりは良い選択肢であろう。