トンナムのタイ政治経済研究室

タイ政治の解説、分析などを中心としたタイ研究の専門家によるブログです。

2017年08月

国家改革委員会に関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、国家改革委員会に関する評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 2014年にNCPOがインラック政権を崩壊させるクーデターを起こしてから、国家改革はNCPOが実行し、成功させなくてはならない国家的課題であると常に主張されてきた。NCPOが国家改革を強調し、重視している理由は、クーデターの実行前に社会が要求していた課題だからであり、そしてNCPO自身も成果を出して、無駄なクーデターであったと思われたくないからである。前回の2006年クーデターは、完全に失敗であったと批判されており、NCPOは先輩軍人と同じ轍を踏まないように真剣に考えている。

 2014年から2017年までの3年間でNCPOは、3回の大きな国家改革に着手した。即ちそれは、①国家改革会議(NRC)250人の任命、②国家改革推進会議(NRSA)200人の任命、③国家改革委員会120人の任命である。国家改革委員会の任命は先日発表があったばかりである。NCPOが使用しているスタイルは、2006年クーデター団が実行したスタイルとは完全に異なっている。前回クーデターの国家安全保障評議会は、国家改革のための特定の議会を開設することはせず、憲法草案の中に国家改革案を詰め込んで改革を実行しようとした。つまり憲法起草議会と憲法起草委員会が改革推進の役割を担う組織であった。

 2006年の改革スタイルには、その方法が正しい道筋なのかどうか常に疑問が呈されてきた。重要なルールを全て憲法に盛り込み、憲法に規定された通りにルールを制定することまでを定めたため、数多くの憲法付属法を制定しなければならなくなった。それは付属法が制定されなければ、憲法の国民の権利と自由は保障されていないに等しいのであった。過去に起こった問題の教訓を得て、NCPOは「議会」というスタイルを採用し、NRC、NRSA、そして今回の11分野の国家改革委員会を設置したのである。NRCから11分野の国家改革委員会までのNCPOの国家改革の設計図の中身を覗いてみれば、それらに相違点は皆無であることが分かる。「性格の異なる双子」と言うこともできよう。

 NRCとNRSAには、同じような職務権限が憲法に明確に規定されていた。それは、国家改革のための研究、分析、方向性の提示、助言と国家立法議会(NLA)、内閣、NCPO、関係機関への提言である。内閣の承認を経ることなく、NLAへ直接的に法案を提出する権限も有していた。NRCとNRSAの違いは、憲法草案への投票権を有するかどうかだけに過ぎなかった。NRCは、憲法草案へ賛成するか反対するか選ぶ権限があったが、これに対してNRSAはその権限を有していなかった。

 「2017年国家改革計画手続法」で規定されている国家改革委員会の職務権限は、同じようにNRCとNRSAと同じ所もあれば異なるところもある。共通点は、国家戦略委員会に意見提案し、国会、内閣、関係機関に国家改革計画の実行について提案を出来ることである。他方で相違点は、言葉遣いがNRCとNRSAと異なる以外には、ほとんど違いは見当たらないのである。とはいえ、それでも一部の条項には相違点もある。それは、国家改革委員会は国家改革実行の進捗調査及び評価の権限を有していることである。従って、国家改革委員会は、政府機関に対して国家改革計画に沿って改革が実施されているかどうか質問する義務を有する。もし政府機関が無視していれば、国家改革委員会は、その問題を国家戦略委員会に通知し、その機関の責任者を処分させることができる。

 NRC、NRSA、国家改革委員会を比較検討すれば、共通点と相違点があった。国家改革委員会は進捗調査、評価の権限を有するので多少の相違点があるとも言えるが、このようなスタイルで国家改革委員会をデザインしたことは国家改革にとって正しかったのかどうかという疑問がある。政府が国家改革計画と一致した国家改革の実行の進捗調査や評価をしたいのであれば、政府自らが行政管理者として公務員に賞罰を科すこともできるので、新たな組織を設置する必要もなく、国家改革委員会を設置する必要もないのである。さらに、間もなく国家戦略委員会が設置される。同委員会は同様の職務権限を有し、且つ行政運営者も参画しており、国家改革の監督者の役割を担うには同委員会で十分であろう。結局のところ、国家改革委員会は、「議会」が「委員会」に変更になっただけであり、NRCやNRSAと違いはないのである。

政党活動禁止に関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、政党活動禁止に関する評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 コメ担保融資制度に関する裁判でインラック前首相に判決が下される予定となっている8月25日が近づくにつれて、タイ政治状況は緊張の度合いが高まってきている。インラック前首相の今回の裁判と以前のタクシン元首相のラチャダピセーク通り違法土地取引裁判の時の状況を比較した場合、両者には重要な相違点があることが分かる。10年前にタクシン元首相の運命を決める判決が下された際には、被告自身が最高裁政治職刑事訴訟部の判決を聞きに出廷せず、いわば「逃亡」していたので、それほど緊迫した雰囲気ではなかった。裁判所は、被告のタクシン元首相へ直接に判決を申し渡す必要はなかったのである。その判決は、禁固刑であり、その日以降現在に至るまでタクシン元首相はタイに帰国することができないままになっている。

 今回のインラック裁判との相違点は、「どこにも逃亡しない」で、被告自身が裁判所で判決を聞きに行くということである。インラック前首相が25日に裁判所と対面することになった理由の一つとしては、NCPOによって前首相の海外渡航が禁止されていることがある。インラック前首相が今回の裁判に賭けたものは、「自由」である。最高裁判所が数日であろうと、数ヶ月であろうと、数年であろうと禁固刑の実刑判決を下せば、囚人服を着せられ、囚人として刑務所に収監された首相経験者として、タイ政治史の記録に留められることになる。そのような「高価なモノ」を賭けたことにより、タイ貢献党及びインラック支持者は、自らの愛するボスを励ますために熱心に活動しているのである。

 NCPOも今回のゲームを良く把握している。勢いを封じ込めるため、政治活動をさせないままにしている。インラック応援隊へのNCPOの懸念は、全ての政党にまで影響を及ぼしている。総選挙の実施に関わる憲法付属選挙管理委員会法、政党法が国家立法議会(NLA)で可決したにもかかわらず、NCPOは一切の政治活動を禁止したままである。「治安維持を担当し、状況に関する情報を毎週まとめているプラウィット副首相兼国防相の意見を聴取し、状況を分析したが、王室行事が未だ終了していないままで混乱を生じさせるわけにはいかない」というのが最近のプラユット首相兼NCPO議長の見解であった。政党活動は未だ絶対に認めないということを再度強調するものであった。

 この問題に関するNCPOの態度を見ていると、いくつかの重要なことを隠そうとしていることは間違いない。今回のタイ貢献党の支持者は、NCPOと闘うために活動しているのではないので、NCPOが支持者に厳しく対処しなければならない理由は何もないのである。しかし、何故NCPOが棒切れを持って支持者を追い払おうとしているのか、その理由の一つとして考えられることは、タイ貢献党への信頼を貶めるため、赤シャツグループが新たな対立状況を作り出そうとしているとのイメージを社会に植え付けようとしていることである。

 NCPOは、どれだけの請願や圧力を受けようとも、未だ政党の政治活動禁止処分を解除しようとしない。現在の政党は、力を失った政治アクターに過ぎなくなっていることは明白である。意見表明する舞台を欠き、政党の政策を推進することも出来ず、公共的なテーマについてメディアへのインタビューを受けることしかできない。それでは政治への影響力を与えることはほとんど出来ない。現在のこのような状況の政党には、NCPOに対抗する力はないのである。それにもかかわらずNCPOが政党に活動を禁止しているのは、NCPO自身が正統性を強化しようと励んでいるこの期間に政党に役割を与えたくないからである。

 NCPOと内閣による行政運営は、効率性という観点から大きな疑問を持たれている。特に経済問題の解決について、現在の状況は政権の成果がどのようなものであるのかを示す明確な回答となっている。NCPOの職務遂行の失敗は、国民を政治家への信頼に向かわせることになる。なぜなら国民の大勢は、少なくとも政治家は軍人よりも国民の声に耳を傾けると思っているからである。NCPOも良く自覚しており、もし政党に活動を許可すれば、NCPOは政党に対して恥をかくことになる。政党が会議、集会を実施することが可能になるということは、政党は総選挙に向けて次から次と政策を発表していくことになる。政党が政策を発表すれば、それは現政権の政策と比較されることになる。これら全部の理由によって、NCPOは、政党活動を認めないのである。「虎を森から出してしまえば、その虎が自分に噛みついてくる」からである。

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