トンナムのタイ政治経済研究室

タイ政治の解説、分析などを中心としたタイ研究の専門家によるブログです。

2017年07月

インラック裁判に関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、「インラックを励まそうと大衆を煽っても盛り上げることは困難」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 「誰が誰を好きだろうと勝手にすれば良いが、他人を困らせることや法律を無視することをするべきではない。誰かが大衆を煽って集会をさせようとすれば、それは違法行為である。今はまだ追及を受けていなくても、その後追及を受けることになる。法律は法律であり、例外はない」。8月25日に判決言い渡しが予定されている最高裁政治職訴訟部でのコメ担保融資制度裁判に関し、インラック前首相を励まそうと集会を実施する動きに対して、プラユット首相が送った合図は明確であった。

 これに合わせるかのように、ウィンタイ陸軍大佐・陸軍兼NCPO報道官も「コメ担保融資制度裁判の最終陳述を予定している8月1日より、治安機関は第3者による干渉を受けないために状況評価を続ける。現在までのところ大衆を煽るような動きはみられない」と述べた。大衆運動により混乱が発生し、治安や政権の安定性に影響を与えることがないように、また第3者が干渉して事態を悪化させることがないように厳しく管理しようとしていることが見られる。インラック前首相支持者を煽動することは難しくなっている。

 現在も支持基盤としてインラック前首相と親密な関係を続けているタイ貢献党や赤シャツ以外からも全国各地でインラック前首相に同情する声は少なくないことは確かである。しかし、現在の国家の状況下で大衆を扇動すれば治安を損なうリスクがある上、以下のような問題を抱えることになる。

 第1に法的制約である。戒厳令解除の代わりに適用されることになった暫定憲法第44条の強権に基づくNCPO命令2015年第3号「国家の秩序治安維持」の全14項目のうちの第12項は、「5人以上の政治集会を禁止し、違反者に6ヶ月未満の禁固乃至1万バーツの罰金、もしくは禁固、罰金の両方を科す」と定めている。また2015年「公共集会規制法」という制約もある。同法は、集会禁止場所の詳細を定めており、同法の2項において、「国会、首相府、憲法裁判所、司法裁判所、行政裁判所、軍事裁判所、その他裁判所」での集会を禁止している。これらの制約により裁判所敷地内で大衆に集会を実施させることを躊躇させている。

 他方で幹部レベルでは、元タイ貢献党議員達も赤シャツ幹部もこれまでインラック首相の裁判所出廷の応援に駆けつけても、個人的な立場で参加しているに過ぎず、これまでの政治集会のように大衆の参加を煽っているわけではない。現在赤シャツの幹部達は各自が訴訟を抱えており、中には1年の禁固実刑判決を受け収監されたジャトゥポンUDD代表のように身柄を拘束されている幹部もいる。多くの赤シャツ幹部は保釈中の立場であり、保釈の条件として、政治運動を行わないことや治安に影響を与えるいかなる行為もしないことを課されている。仮に大衆に参加を呼びかければ、保釈取り消しとなるリスクを負うことになる。多くの幹部達が抱えている容疑は、テロ容疑など重大な案件であり、そのようなリスクを負いたくないだろう。

 タイ貢献党の元議員達は、とりあえず2018年8月19日に総選挙が予定されており、現在は選挙区での集票活動に繰り出す準備をしているところである。リスクのある行動を取って立件されれば、将来、政治の舞台から退出を余儀なくされる可能性があり、リスク回避のために慎重に振る舞わざるを得ない。多くのタイ貢献党元議員達は、審理中の訴訟を抱えており、何らかの行動によって、これらの訴訟が影響を受ける可能性があることから、NCPOが絶対権力を有する政府の下で、そのような行動をすることは良い選択ではない。

 重要なことは、現在、各地で当局がインラック前首相を応援しようする大衆の動きを封じようとしていることが見られるが、どこにも逃げるつもりはないと宣言し、大衆に背後から支えられて訴訟を闘うことは、静かにしていた大衆を目覚めさせ扇動させるもう一つの運動になるということである。たとえ今回の訴訟において煽動することに成功しなくても、同情票を集め、選挙期間中の運動の話題とするためには必要なことである。

総選挙の延期可能性に関する評論記事

マティチョンは、「政治の信頼、総選挙への自信、NCPOへの信頼」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 2017年憲法が施行されたが、同憲法の経過規定により「暫定憲法第44条の強権」が未だ発動可能なことにより、プラユット首相は、丘の上に立って周囲を見渡すがごとく、スムーズにルートを進んでいるかのようである。しかし、4月に新憲法が施行されて以降、NCPOとプラユット政権は、そのように進めようとしているのだろうか。憲法付属法の法制化手続きを見ていると、それがどうなのか判別できなくなる。

 二ピット・イントラソムバット(民主党副党首)の出した結論は、「ロードマップの延期は不可避であり、総選挙の実施は2019年になる」というものであった。そのような「イメージ」(マノー)で見られているものの、ウィサヌ・クルアガーム副首相からも、ポンペット・ウィチットチョンチャイ国家立法議会(NLA)議長からも、スラチャイ・リアンブンルートチャイNLA副議長からも、「(総選挙の実施は)この先そんなに長くはない」という同じ回答であった。

 憲法起草委員会(CDC)とNLAと間での(憲法付属法案を巡る)考え方の違いを巡る対立の進展は、単に両者の「相違点」を見せようと提示をしているだけかもしれない。ボーウォンサック・ウワンノー版の憲法草案の事例について、二ピットは、無視することの出来ない前例であると指摘している。2015年9月の国家改革会議での憲法草案の採決の際には、政府は賛成であると立場を示していながら、たったの一晩で憲法草案への見解が変わり、その結果、憲法草案は否決された。そして、ボーウォンサックはショックを受け、政治の舞台から姿を消し、受けた傷を癒やすために、この経緯の教訓として、手短に「彼は長く居続けたいのだ」と結論づけた。

 「彼は長く居続けたいのだ」。2015年9月の結論は、憲法起草と承認までの期間を延期させたいということであった。「太鼓持ち」(アイホイ・アイホーン)達の感情に注目すれば、深く理解する(ターサワン)ことができるだろう。2015年9月を経て、2016年8月を経て、2017年4月に至るまでの期間のアピシット民主党党首の要求事項を追ってみると、総選挙の実施に向けて1からカウント仕始めることを主張しているかのようである。文字通りに憲法を読んでみれば、総選挙の実施は遅くとも2018年末ということになる。しかし、現在のCDCとNLAの対立状況をみれば、そのスケジュールにも疑念が生じることになる。(CDCとNLAの対立の)役割は、「タイ伝統劇」(リゲー)を演じているかのようである。馬は馬ではなく、「バナナの葉で作った偽物の馬」(ガーンクルワイ)であり、刀はウッタラディット県のナムピ地区産出の銘鉄から作られたものではなく、木刀であり、敵に刀を突き差すのではなく、(刺された振りをして)脇の下に刀を挟むだけに過ぎない。

 2015年9月の悪夢が再び戻ってきたのである。それが、二ピットに「2018年に選挙が実施されるなんてことを考えることは、もうやめていい。2019年に延期になるだろう」と自信を持って思わせたのである。つまり、憲法を信じず、NCPOを信じないに等しいことである。プラユット首相であろうとウィサヌ副首相であろうと、NCPOの「頭から尻尾の先」まで、全ての手続きは、法律に則って進められるとの立場を説明することは自然なことである。法律は政治の真実であり、彼がそう言えば、彼の配下は言うことを聞くが、彼が言ったとおりに着手すれば、彼の配下は信じるだろう。もうすぐである。その答えが見られるのは。

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