トンナムのタイ政治経済研究室

タイ政治の解説、分析などを中心としたタイ研究の専門家によるブログです。

2017年04月

NLA内部対立に関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、「選挙監理委員会法案検討委員長の座がNLA対立の原因に」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 政治の行方は、現在、国家立法議会(NLA)の決定にかかっている。重要な法律の多くがNLAでの審議の段階に差し掛かっており、NLAは活気を帯びている。「国家改革実施計画手続法案」は、各分野に関する国家改革委員を任命するという重要な内容となっている。同法案によれば、政治や行政、法律などの11分野の各国家改革委員が改革計画を策定すると定められている。このような法案審議が開始されたのである。また「国家戦略策定法案」もある。同法案は、持続的な開発が可能なように、20年以上に亘る国家戦略を策定するためのものであり、国家戦略が国王に承認され官報に掲載されれば、全ての政府機関をその国家戦略に従って、政策立案、運営するように拘束する。

 現在、選挙実施に関連する憲法付属法案である「憲法付属法・選挙監理委員会(EC)法案」と「憲法付属法・政党法」がNLAに提出され、審議され第1読会を通過し、法案検討委員会での検討の段階に差し掛かっている。選挙関連法案の現在の注目点は、その内容自体ではなく、議会内でまさに現在、熱くなっている「EC法案検討委員会委員長」の座を巡る対立である。これまでNLA内部では、ジェット・シラタラノン医師がポンペットNLA議長より、2017年憲法が公布・施行される前から、EC法案の検討を任されており、当然ながら、委員長に就任するという合意が出来ていた。ジェット議員は、これまで常にEC法案について、NLA議員内の意見聴取、調整の役割を担っていたので、同医師が最も適切に同法案を運営することができると思われていた。しかし、何故か特別な方法によって、委員長がトゥアン・アンタチャイ議員に変更になってしまった。

 EC法案検討委員会の委員長、副委員長、事務局長、報道官を選出するために開催された4月24日の検討委員会において、会議が開催される直前までは、ジェット医師の名前が委員長として挙がっていたのが、会議が開催された途端に、NCPOの大物の言葉を引き合いにし、委員長がトゥアン議員に変更になったのであった。このような運営はこれまでなかったことである。通常であれば、NCPOが何らかの方針がある場合には、委員長に事前に連絡調整し、それからNLA国対委員会を通じてNLA議員に普及させてきた。従って今回発生したことは、非常に異常な事態である。

 今回委員長が変更となった理由を分析すれば、「上院40グループ」という要素が疑われる。ジェット医師も上院40グループのメンバーであり、トゥアン議員も以前に上院議員だった際には、上院40グループの中で一緒に活動をしていた。だが、トゥアン議員は、その後、(同グループから)一定の距離を置くようになっていた。

 上院40グループに所属するNLA議員は、NLA議員の中でもNCPOと直接つながっておらず、一定の独自性がある。これまで上院40グループは、NCPOに対して、何度も反抗的な態度を示してきた。例えば、国家オンブズマンの指名において、NCPOが支持する人物に対抗したり、「石油関連法案」で市民グループを支援して、法案に反対をしたりなどの動きである。これらの諸要因によって、NCPOは、上院40グループのメンバーをさほど信用しなくなっている。

 NCPOは、上院40グループのメンバーであるソムジェット・ブンタノーム陸軍大将・NLA議員を既に「政党法案検討委員会委員長」に就任させることを認めており、仮に同じ上院40グループのジェット医師まで「EC法案検討委員会委員長」に就任してしまえば、NCPOは、選挙ルールのデザインを管理することが難しくなってしまう。NCPOが将来実施される選挙の重要性を感じていれば、長期間に亘って連絡調整が容易で、信頼できる人物に重要な仕事を任せなければならないのである。

プラウィット副首相兼国防大臣に関する評論記事

タイラットは、「兄貴を捨てる準備が出来たのか?」と題したプラウィット副首相兼国防大臣に関する評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 「深く潜水」し、完全に静まりかえっていた。去る18日の閣議で承認されて、「メイドインチャイナ」の「ユアン級S26T」潜水艦が再び浮上してきた。しかし、この購入計画が報道されたのは、今週25日の閣議の直前であった。それに加えて、偶然にも「トゥー叔父さん(プラユット)」首相兼NCPO議長がバーレーンでの経済協力のための会議出席に向けて飛び去ったタイミングとも一致していた。この外遊に際して、プラユット首相は、「ポム兄貴」ことプラウィット副首相兼国防大臣に首相代行として権限委任し、閣議の議長代行を務めさせた。それは「別の目的」を任せたからである。

 「ポム兄貴」が記者からの長時間のインタビューを受けて、購入の清廉潔白さ、潜水艦購入の必要性を説明している様子は、まるで宿題を終わらせる準備をしていたかのようであった。何故(潜水艦購入決定に関して)正式な記者会見がないのかという社会が疑念を抱いている点について、プラウィット副首相兼国防大臣は、「この書類は、戦略、戦術に関わる機密文書であり、公表する必要の無いものである。歴代の内閣も同じように公表していないものであり、不思議なことではない。どのような省庁、部局であろうと機密書類が存在するものである」と説明した。最後に「兄貴」は、潜水艦購入問題について説明を終わらせるため、他の話題へと誘導して行った。

 プラウィットの状態から推測するに、このような状況になることを事前に準備していたようであり、今回の闘いに大きな賭をしていたのであろう。プラウィットがソンクラン休暇と称して長期休暇を願い出て、続けて14日間も記者の前から姿をくらまして、長時間のインタビューを受け付けないという奇妙な行動を取っていたことは、この状況を反映していたようである。回答の難しい質問を回避しながら、どうするか逡巡していたに等しい。

 しかし、それでも逃げ切れなかった。潜水艦購入計画は、社会の注目から逃れられない標的にされており、NCPOによる軍事政権が「机を叩き」、決断すると予想されていた。批判など気にしない。当然購入にするに決まっていた。そして「兄貴」は、増しつつある圧力から逃げられなくなっており、「爆撃対象地」と化して、不注意によって政治状況を変えてしまいかねない要因を拡大させた。さらに内閣改造の噂が溢れるようになってきた。

 特にPAD(黄シャツ)グループのメディアは、最近、「兄貴」を含め、ジャクティップ警察長官が「兄貴」の後任候補であると名指しして、彼らを「治安関係ネットワーク」として一括りにして纏めて切り捨てようと躍起になっている。PADのネットワークと「テウェート地区の家」(当館注:プレム枢密院議長公邸を指す)に近い筋のグループは、最も成熟した「兄貴」を削ぎ落とし、絶対に失墜させようと、そのために全力で取り組んでいる。しかし、この動きは、一方だけのものに過ぎない。外部の状態はその通りかもしれないが、NCPO政権の権力内部には、また別の事情がある。内部にとっては、「兄貴」は、問題が生じても、メディアからの話題を全て片付けてくれるのである。プラウィットは、困難な問題に生じた時も、プラユット首相への攻撃を回避させるための緩衝材となり、前面で全てを引き受けて、激しい衝突に耐えてくれるのである。まるで、主役を引き立てるために背後にいる悪役となることを認めているようなものである。

 「兄貴」は、首相から70案件以上の経済、社会、治安関係の委員会の委員長を委任され、数多くの事業を推進している重要な役割も担っている。「思い通りに進む船」(ルアペッ)の操縦を司る主要な歯車となっている。当初よりNCPO政権は、「ビックブラザー」のカリスマ性が背後にあって運営されていたことは否定できない。内閣改造の噂が出ていることで、大きなクエスチョンマークが生じている。それは、プラユット首相は、「兄貴」を切り捨てる準備はどれだけ出来ているのだろうかということである。

立憲革命記念プレートに関する評論記事

マティチョンは、「狂乱、混乱、人民党記念プレート:問題を起こしたのは誰だ」と題した評論記事を掲載しているところ概要以下のとおり。

 4月14日に報じられて以降、特に新聞紙上で「人民党立憲革命記念プレート」(注:ドゥシット区のラーマ5世騎馬像前の道路に立憲革命を記念して埋め込まれているプレート)に関して、その役割、意味合い、その意図することを報じようとしている。新聞各社は、他社の新聞にそれほど関心をもたせないようにするものであるが、「殴り合い」状態の報道合戦が1週間続いたが、人民党記念プレートに関する報道は、新聞紙上から消え去ったであろうか。その答えは、「否」であると断言できる。

 人民党記念プレートに関する報道が、徐々に拡大し、社会から関心を持たれている要因は、当然ながら、「シースワン・ジャンヤー氏」(注:憲法擁護協会事務局長で、本件に関する捜査請求を首相府に提出しに行って、軍施設に連行された人物)でも「ジャ・ニュウ」(注:新民主主義運動(NDM)の学生活動家)が騒いでいるからではない。それは、新たに埋め込まれたプレートの表面に記載されていることである。

 もし、新しいプレートが代わりに埋め込まれていなければ、それは徐々に沈静化していって仏暦2503年(西暦1960年)7月の状況と大差なかっであろう。その時点では、6月24日(注:立憲革命記念日)は、「ナショナルデー」から変更されるように閣議決定がされ、人民党記念プレートもラーマ5世騎馬像前の設置場所から外された。外されたプレートは、報道されることがないまま、国会事務局職員が運び、国会図書館に所蔵された。これは、2017年、今回のケースとは正反対であった。なぜなら、驚くべきことに、今回のケースで人民党記念プレートは、いつの間にかどうやってか消え去ってしまい、新たなプレートに入れ替わってしまっていたからである。そのために旧プレートと新プレートの比較に注目が集まるのである。

 重要なことは、政府の立場である。政府首脳からドゥシット区、芸術局までの誰もが人民党記念プレートがどこに消えたのか分からず、新しいプレートがどうやって代わり埋め込まれたのか答えられないのである。そして、首都警察本部から暴徒鎮圧保安部隊がプレートの周辺に配備され、誰も近づけないようになった。同時に新しいプレートの写真を撮影することを禁止する命令が出された。もし撮影しているのが見つかれば、写真の消去を命じられ、違犯すれば法律に則って処罰されることになる。これが人民党記念プレートとの大きな相違点である。この状況が人民党記念プレートの報道を収束させない理由である。

 「人民党記念プレート」が消失したとの報告があった4月14日以降、政府はこの事件に関する狂乱、混乱は、「外的要因」から生じたことではないと評価している。むしろ逆に政府による立場、意見表明という「内的要因」から生じたものであると見ている。問題の過熱化により、この状況への不信感、疑惑を高じさせている。

ピックアップトラックの乗車規制に関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、「第44条の膨張、ピックアップトラックを戦車(注:軍政の比喩)に衝突させる」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 2014年にプラユット首相兼NCPO議長がクーデターを実行し、インラック政権を崩壊させた当初を振り返ってみると、NCPOは、政治課題を処理する以外にも、社会問題を少なからず重要視していたことが覗える。バイクタクシーグループ、ロットトゥー(ミニバンバス)の秩序整備、政府宝くじの価格管理、路上販売の場所規制など、これらの問題にNCPO政権と同じくらい本気で取り組んだ政権はこれまでに存在しなかった。なぜなら、これらの問題は、マフィア(プーミーイティポン)と関わる問題であり、彼らが政党の支持基盤の一部でもあるからである。それに、これらの問題に関与すれば、それによって影響を受ける一部の国民からの反発を招くことになるからである。従って、これまで多くの政党による政権は、支持基盤を失って、人気を落とすことを望まず、あまり真剣に関わろうとしてこなかった。これらの問題は、蓄積されて箱から溢れてしまっていたのであった。その時に権力を持ったNCPOが現れて対処をすることになったのであった。

 NCPO政権の初期には、これらの問題の手術を実施し、問題解決の具体的な成果を示したことで、ある程度の評判を得たことは否定できない。政治家によるこれまでの政権が本気で取り組んで来なかったこととは異なっていたからである。政府宝くじ問題に関して言えば、NCPO政権は、強権を使って、一枚80バーツで販売することを義務づけるという信じられない成果を出すことが出来た。バイクタクシーの秩序整備も同様であった。消費者が不利益を被ることのない適切な価格を設定することが出来た。首都バンコクの重要地域での路上販売の規制に関しても、同様に素晴らしい成果を出すことが出来た。これらの問題解決に着手し、具体的な成果を出したことで、NCPOは、相当の人気を獲得した。重要なことは、NCPOは、それにより、国民から政治的な動機のみによって権力を掌握し、絶対権力を使用したのではないと見られたことである。

 現在、これまでNCPOの人気を高めてきたことが、信じられないことに今度はNCPOを逆に傷つけるようになってきている。それは、最近の交通秩序管理に見ることができる。NCPO政権は、個人自動車、旅客自動車の交通秩序管理に着手し、ピックアップトラックの荷台部分に人間を乗せることを禁じた。NCPOは、この課題に本気で取り組むため、2014年暫定憲法第44条の強権を発動した。同強権を発動すれば、規則は即時に発効するので、(死亡事故の多発する)ソンクラン(タイ旧正月)休暇に適用が間に合うからである。NCPO側の視点は、以下のように理解できる。NCPOがこれまで警察職員に交通法規の厳しい適用を促してきたにもかかわらず、事故発生の統計的な数字は全く減少がみられなかった。ちょうど年末年始にバンコク~ジャンタブリ路線のロットトゥーの事故が発生し、多くの死傷者が発生したこともあり、ソンクラン休暇期間中に同じような事故を発生させたくなかったのである。それがNCPOを焦らせ、規制強化に向かわせたのであった。しかし、別の視点からみれば、第44条の発動は、憲法規定に次ぐ最高の形態の権力行使であり、このような課題に適用するということは、「一匹の鼠を捕まえるのに家ごと燃やしてしまうようなこと」である。

 第44条の発動は、国家構造に関わるような大きな問題を解決するために適用されるべきであろう。例えば、経済、政治、汚職などの主要な問題である。これまでNCPOは、同条項を発動することで、一定の高評価を得てきた。しかし、第44条の発動が必要のないような課題にまで何度も適用されたことで、第44条を(無駄に)膨張させてしまったのである。忘れてはならない重要なことは、第44条の発動は、その度にそれが普通の国民の総意を経て施行された法律と比較されることである。この前のピックアップトラックに関する第44条の発動は、国民生活に大きな影響を与えることであった。さらに深刻なことは、第44条の発動は、法的に最高の保護を受けるだけでなく、見直しを求めて裁判所に訴えを起こすこともできないことである。もし、第44条の発動によって自動車の所有者が問題に直面したとしても、それを法手続に従って、訴えを起こし、解決の道を探ることは、どうやってもできないのである。

 NCPOが第44条を発動する際に、ネガティブな反応の方が、ポジティブな反応より多くなってきている。オンラインメディアから大きな反発が巻き起こり始め、NCPOを様々な形態で馬鹿にする潮流が生まれたことで、第44条の権威を貶めることになった。このような理由によって、NCPOは、一旦バック・ギアを入れざるを得なくなり、国民がソンクラン期間中にはピックアップトラックの荷台に乗れるように修正し、その後、再度適切なルールを定めることになった。これは、NCPOが第44条の発動による厳しいルール適用を緩めた初の事例である。今回、NCPOが得た重要な教訓は、公共の総意を欠いて絶対権力を行使する場合、それは想像も出来ないほどのダメージをNCPOに与える可能性があるということであった。


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