トンナムのタイ政治経済研究室

タイ政治の解説、分析などを中心としたタイ研究の専門家によるブログです。

2017年03月

中国製潜水艦調達に関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、中国製潜水艦調達計画に関し、「潜水艦:思い通りに動く船を座礁させる」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 プラウィット副首相兼国防大臣、ウドムデート国防副大臣、スラポン国軍最高司令官、チャルームチャイ陸軍司令官が揃って、ナ海軍司令官に出迎えられながら、チョンブリ県サタヒップ郡のマヒドン親王海軍工廠を視察訪問したことで、潜水艦調達計画の実現がよりいっそう鮮明になってきた。視察訪問した場所は、マヒドン親王海軍工廠内で潜水艦の補修修繕のためのドックヤード建設用として確保してある40.78ライの土地であった。

 プラウィット副首相兼国防大臣は、「海軍は既に随分前から潜水艦を保持する準備が出来ていたが、購入出来ないままであった。これまで海軍が出来る限りの説明を尽くしてみても、タイ湾は浅すぎて潜水が出来ないと批判をされてきたからである。一部の人々は必要性を理解していたが、理解していないように振る舞ってきた」と述べた。今回の潜水艦調達のための努力は、実現により近づきつつある。計画に反対する声としては、景気が悪化し、未だ改善を見せる気配がない自国及び世界の現状を考えて、必要のない巨額の潜水艦調達に予算を浪費することをせず、より必要性の高いその他の計画のために蓄えておくべきであるというものである。

 以前、グライソン海軍大将・海軍司令官(当時)は、調達運営委員会が6カ国の候補国の潜水艦を視察して検討した結果、海軍は全会一致で360億バーツの予算で中国製潜水艦3隻を調達することを決定したと説明していた。調達予定の潜水艦は、「元級」S26Tで、AIP(Air-Independent Propulsion system)が登載されており、21日間の連続潜水航行が可能である。この価格には、乗員訓練費、8年間の部品保証が含まれており、他国よりも低額であったからである。

 全ては静かに推進されていたが、潜水艦調達に向けた動きは、今回のような視察の姿を披露するまでになった。プラウィット副首相兼国防大臣曰く、「この計画は今年の予算法に計上されており、国家立法議会(NLA)の決議を既に経ている。残りはいつ閣議に諮るかどうかだけである。現時点で重要な手続きは、政府間取引(G2G)のように納入国と連絡調整をすることである」。全ては大幅に前進しており、閣議決定を待っているだけである点を強調していた。「海軍は既に随分前から潜水艦を保持する準備が出来ていたが、購入出来ないままであった。浅すぎて潜水が出来ないと批判をされてきたからである。これまでアンダマン海の200海里内に天然資源がある点を考慮していなかった。潜水できないと批判され、いつも購入出来ないままであった。我々は国家にとって最も良いことをしようと努力していることを保証する」。

 NLAが承認した2017年度の国家予算は、2兆7330億バーツであり、その内の2143億4740万バーツが国防省予算であった。同省予算は、潜水艦調達を明記することなく、昨年より78億8610万バーツ、つまり3.8%増加している。同省予算の内の海軍分は、413億2100万バーツであり、安全保障・海外脅威予防基礎計画費目で197億7400万バーツ、装備開発計画費目で8億3850万バーツ、翌年度繰り越し増兵計画費目で66億2700万バーツ、国防計画実行費が18億7000万バーツであった。

 今年の年初にジュンポン海軍報道官は、政府とNLAの承認を得て、中国から「元級」S26T潜水艦の最初の1隻を2017年度予算から135億バーツで調達すると発表した。理由は海軍の予算制約である。実のところ、この値段は360億バーツで3隻を同時に調達するよりも高価である。これは明確な合図を発したことになる。

 現在、潜水艦調達計画の推進は再び政権とNCPOの安定性を脅かすリスクになりつつある。国家の財政状況が悪く、国家の前進に関わる巨大インフラ計画を推進するための歳入不足に直面し、それを補うための税収確保に迫られている。問題は歳入が歳出よりも少ないことであり、赤字予算となってしまうことである。そのため不要な歳出を削減、中止する準備をしているとの報道が流れており、関係者が反発をしている。農産品価格下落の影響を受けた農業者の救済事業、洪水、干ばつの影響を受けた農業者救済事業といった多くの事業が、予算不足を理由に削減されている。

 タイの国家は、毎年多額の維持修繕費を支払って潜水艦を保持しておかなければならないほどの安全保障上のリスクに直面しているとは誰も思ってはいない。混乱の最中に鶏を盗んでゲームを終わらせようとすれば、「潜水艦を座礁させる」だけでなく、「思い通りに動く船」まで嵐に直面させ、座礁することになりかねない。

摂政任命に関する評論記事

クルンテープトゥラキットは、チャヤン・チャイヤポン・チュラロンコン大学政治学部教授による「1994年ラオスご訪問:摂政の任命無し」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 1932年の立憲革命以降、最高法規は、摂政任命に関して以下のように同じ原則を適用してきた。それは、「国王が王国内に不在の時、もしくは何らかの事由により王務をなし得ない時は、摂政一人を任命する(以下略)」。他方で暫定憲法では、摂政任命に関する条文は有していないが、「何らかの事案について本憲法に適用すべき規定がない場合、当該行為または当該判断は、国王を元首とする民主主義体制下のタイ国の統治慣習にもとづくものとする」と規定されている。

 タイ国憲法の下、「国王が王国内に不在の時、もしくは何らかの事由により王務をなし得ない時」に摂政任命を義務づけており、1959年暫定憲法の下、1959年~1968年にかけて、国王は31回の外国訪問を行い、その度に摂政を任命していた。従って、この時期の摂政任命に関しては、「民主主義体制下のタイ国の統治慣習」であったと解釈することが出来る。この間に3回のタイ近隣国への訪問があった。それは「南ベトナム訪問:1959年12月18~21日」、「ビルマ連邦訪問:1960年3月2~5日」、そして「マラヤ連邦訪問:1962年6月20~27日」であった。それ以外の外国訪問は全て遠方の国であった。この3回の近隣国訪問は、飛行機に搭乗しての訪問であった。南ベトナム訪問には、サイゴン市のタンソンニャット空港を使用し、ビルマ連邦訪問にはヤンゴンのミンガラドン空港が使用された。マラヤ連邦訪問に関しては、筆者はどのように訪問したのかデータを持っていないが、1962年の訪問であれば、同様に飛行機に搭乗して訪問したと考えられる。

 1968年以降の26年間で、故プミポン国王が海外訪問を行ったのは、1994年4月8-9日のラオス訪問が初めてであった。その時には、1991年憲法下であり、同憲法の第16条の規定は、「国王が王国内に不在の時、もしくは何らかの事由により王務をなし得ない時は、摂政一人を任命し、国会議長はその勅命に副署する」となっていた。しかし、この時の訪問に際しては、摂政は任命されていない。これがプミポン国王が王国内に不在の時に摂政を任命しなかった初めて且つ唯一の事例であった。この時は、国王とシリキット王妃が隣国ラオスとノンカイ県の間に架けられた「タイ・ラオス友好橋」開通式に出席し、また「フアイソーン」と「フアイスワ」の2つの国王発案の農業開発サービスセンター事業の視察するための訪問であった。1994年4月8-9日のこのラオス訪問では、国王王妃両陛下は、車両に乗ってノンカイ県を通過し、友好橋でつながれたラオスのヴィエンチャンを訪問した。

 筆者は、このラオス訪問について、「国王が王国内に不在の時」であるものの、旅行距離は近距離であり、僅か2日だけの訪問だったので、「王務をなし得ない時」に該当しなかったので、従って摂政を任命しなかったのではないかと推測する。この訪問の際に摂政を任命しなかった事例から読み取れることは、憲法による摂政任命の規定は、「国王が王国内に不在の時」であろうと、「王務をなし得る」のであれば摂政を任命する必要はないということである。これが、その後の摂政任命に関する解釈の「先例」になったのかもしれない。

 立憲君主制度下の憲法及び統治慣習による摂政任命の意図に則って考えれば、「国王が王国内に不在の時」には「王務をなし得ない時」という意味になると筆者は理解している。国王が王国内にいる時でさえ、国王が僧に出家した時や病気の時、未成年である時など「王務をなし得ない時」がある。これらの場合に摂政任命の必要性について、結局のところ、現在どのように解釈すべきなのか疑念が残ったままとなっている。2017年1月15日に施行となった「2014年暫定憲法第4改正版」は、第3条の摂政任命に関する規定が修正され、「国王が王国内に不在の時、もしくは何らかの事由により王務をなし得ない時は、摂政一人を任命しても、しなくても良い」となったので、なおさらである。

安全地帯設置の和平合意に関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、深南部での政府代表団と武装勢力との間の和平合意に関する評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 先月28日のタイ政府とマーラーパッタニーとの間の和平交渉により深南部での和平成立へ前進した。深南部の3県5郡に安全地帯を設置することに合意し、今後は詳細について取り決めるため、市民団体を加えた合同の作業チームが設置される。5郡に安全地帯を設置することは、メリットとデメリットを抱えた「諸刃の剣」でもある。もし成功すれば、長年続いた対立を解消に向かわせる出発点になり得るが、もし失敗すれば、それはマーラーパッタニーの影響力を反映したことになる。つまり、傘下の武装勢力に合意事項を従わせるように管理できておらず、武装闘争が継続することになる。安全地帯の設置は、新しい試みではない。和平交渉を開始した2013年からタイ政府側がこれまでも実現に向けて推進してきたが、提案するだけに留まり、合意にまで至ることはなかった。タイ側の視点からは、安全地帯を設置するための交渉は以下のように多様な側面から重要であった。

 第1に、地域での暴力事案の件数を削減させることである。たとえ対立を解消することが出来ないにしても、暴力事案の発生を無くせることが示せる。そこまで至らなくとも、少なくとも暴力事案の発生を広く拡大させるようなことはなく、設定された枠内に留め置き、管理が出来ることを示すことができる。重要なことは、商業地域や中心地域に安全地帯を設置できれば、心配を軽減させることでき、深南部地域内外の人々と投資家の信頼を得ることにつながる。これまで投資家やビジネスマンが暴力事案により事業投資をする自信を喪失していたが、保証が得られれば、将来の地域の経済が元に戻り、経済成長し、前進していくことになる。

 当初、タイ側は、安全地帯をソンクラ-県ハジャイ郡を含む4県7カ所に設定しようとしていた。それは、最も広大な地域の経済振興を意図していたからである。だが最終的に交渉の結果、以前にタイ側が提示していた2郡から5郡にまで拡大させることに合意できた。その5郡とは、ナラティワート県のスンガイコーロク郡とジョアイロン郡、ヤラー県のラーマン郡とバンナンサター郡、パッタニー県のサーイブリー郡である。

 第2に、今回の安全地帯設置により、マーラーパッタニー側がどの程度実行力があり、効率性があるのか、その潜在力を試すことになることである。今回の安全地帯設置のための試みは何年間も続けられてきたものであるが、まだ確実に成功したわけではないことを忘れてはならない。つまり、双方の「条件」について見解が一致しておらず、その実行を果たしていない。特にマーラーパッタニー側がタイ政府に要求している条件は、逮捕状の取り消し及び重要幹部の法手続の停止である。彼らは地域内での関係者との諸調整のためには自由な活動が保証されなければならないと主張している。そして、マーラーパッタニーが交渉相手であると宣言することも要求している。

 しかし、上記の全ての条件は、タイ側にとって大き過ぎるリスクとなっている。タイ側が重要幹部の法手続を停止し、マーラーパッタニーが主要な交渉相手であると宣言すれば、このグループの重要性を認めたことになってしまうので、望ましくないことなのである。もし、認めてしまえば、他の武装勢力も自らの影響力を誇示するために暴力的運動を起こそうとすることになってしまう。

 第3に、本当に安全地帯が設置されたならば、暴力事案の発生を最もスムーズに減少させることでき、タイ側にとっての大きな成果となることである。その後に問題解決に向けて大きく前進することが出来る。しかしながら、安全地帯設置の合意が成立した後にも安全地帯の外側とはいえ、暴力事案が依然として発生している。ナラティワート県ルーソ郡では、ピックアップトラックが武装勢力に襲撃され、爆弾により車の所有者、銃撃により村長補佐とその妻及びその子を含む4人が殺害されている。マーヨー郡では、軍人3人が銃撃され殺害されている。これは、まだマーラーパッタニー側が状況を完全には制御していないことを示している。タイ側が要求事項を受け入れようとしていないからなのか、それとも他の武装勢力がマーラーパッタニーの統制を外れて勝手に活動しているからなのかは分からない。

 今後の和平成立への道は期待しているほど容易なものではないことも示している。アクサラ-・グーットポン陸軍大将・陸軍顧問団長が和平交渉団長として任命され、広報に長けているピヤワット・ナーカワニット陸軍中将を第4方面軍司令官に配置するなど今回は問題解決のために本気で取り組んでいた。それが状況を改善に向かわせてきたと思われる。しかし、安全地帯設置の合意が前進をしなければ、以前よりも暴力事案が激化するような事態にもなりかねない。

汚職対策に関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、「汚職取締りの進展なし:NCPOへの信頼を低下させる」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 NCPO議長は、汚職対策は重要な国家課題であることを宣言し、タイ社会を長年支配してきた悪しきガンとも言うべき汚職を切除するとの合図を送ってきた。2014年9月12日の国家立法議会(NLA)で表明された11項目の政府の政策の中の第10番目の項目にも「グッドガバナンスに基づいた行政運営と汚職不正の予防取締りを促進する」と明確に示されている。

 しかし、その後2年が経過したものの、この汚職対策の実施は遅延しており、社会が期待していたような成果、進捗がほぼ見られないままである。さらにNCPO関係者が不正と見られる不透明な複数の事案に関与しているとの報道があり、NCPOへの信頼を低下させている。最新のNIDAポール「NCPO政権の2年半の経過時点での信頼度」に関する世論調査結果でも、ほぼ全ての項目で政権への信頼度が低下していたこともそれを裏付けている。最新の調査結果での重要なことは、「透明性」に関する政権への信頼度を示す項目で、67.36%が「透明性があり、調査が可能」と回答し、16.96%が「透明性がなく、調査は不可能」と回答していた。前回の2016年8月時点での調査では、「透明性があり、調査が可能」が72.88%、「透明性がなく、調査は不可能」が10.40%であり、大きく信頼度が低下したことを示している。

 NCPOが政権の座に就いて以来、高額な会議用マイクの調達やラチャパック国立公園建設に関する不正疑惑など様々な信頼を低下させる事案があったことを覚えているだろうか。当然ながら政府が任命した調査委員会による調査結果は、違法性はなしと判断されたが、これらの不正疑惑の追及を注視していた社会の感覚とは大きな相違があった。プラユット首相の実弟のプリチャー陸軍大将が意図的に虚偽の資産報告を行ったとの疑惑が持ち上がったときには、国家汚職防止委員会(NACC)が調査したところ、意図的に虚偽の資産報告を行ったとは認められないとの判断が下された。まるで呆れて言葉も出ない状況であった。同様にプリチャー大将の息子のパトムポン・チャンオーチャー氏の所有会社が軍施設の建設工事を請け負っていたことが発覚し、調達に際してプリチャー大将が自らの権限を使って利益相反行為があったのではないかとの疑惑も生じた。

 一時期、NCPO政権による汚職対策のイメージは改善していた。それは、暫定憲法第44条によるNCPO議長強権を発動し、汚職疑惑のある各レベルの公務員に対して、公正な調査を実施し、更なる損失を発生させないために断固として停職処分や異動を命じたからであった。しかし、その後、時間の経過とともに、社会が期待していた汚職取締りへの進展はなく、元と同じ状況に戻ってしまった。なぜなら自らの関係者への捜査を実施し、証拠を集め、法的追及を行うことは出来ないからである。

 最近の国際的な汚職問題でも同じ状況である。米国と英国がロールスロイス社によるタイ航空及びPTT社への贈賄疑惑に関する証拠を開示し、外国では法的追及が進んでいる。さらに米国法務省が公表した資料では、2006年のタイ国会の監視カメラ(CCTV)調達プロジェクトでも自称プロジェクト顧問を名乗る人物による贈賄事案が記されていた。これら諸外国からの証拠は、どこで誰と誰が面談し、どのような交渉があったのかかなり明確に記されているものの、現在まで関係者への処罰に向けた手続きの進展はみられない。政権は、外国と連絡し、証拠を入手すべく回答を待っていると説明するだけである。最終的にはこの案件も有耶無耶にされて消え去っていくと考えられている。そしてNCPOへの信頼度が継続的に低下していく。

 全てが最悪な状況にまで至る前に、先日、NCPOは本気で汚職対策に取り組む気があることを示す合図を再び発した。それは、第44条の強権発動によるウティチャート・ガラヤーミット・タイ国鉄(SRT)総裁及び理事達の解任である。鉄道事業の調達に関連し、不正の疑いがあるとの多くの申し立てがなされていた。これは重要な転換点である。SRTは、巨額の大型プロジェクトに数多く関わっている。もし事態を放置して問題が生じてしまえば、将来、NCPOの安定性を脅かすような悪い影響を与えることになるかもしれない。NCPO政権は、これを期に、政府機関が50億バーツ以上の調達を実施する際に、厳しく監視し、調査をするために調達監理委員会の設置を導入した。最終コーナーに差し掛かったNCPO政権が今後、成果を出し、良好なイメージを作り出し、国民からの信頼を得て、政権の座に返り咲くことが出来るのかどうか注目していく必要がある。

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