トンナムのタイ政治経済研究室

タイ政治の解説、分析などを中心としたタイ研究の専門家によるブログです。

2017年01月

国民和解に関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、「国民和解行きの最終列車」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 「調和創造と国民和解」は、国家運営を担って来たNCPOのこの2年間の政策とロードマップの一部であったが、未だ具体的な成果が見えないままとなっている。以前には、国家改革会議がアネーク・ラオタンマタット氏を議長とし、「国民和解方針研究委員会」を設置し、多くの提案を行った。中でも興味深い提案は、汚職不正と刑法第112条不敬罪に関連する事案を除いて、恩赦を実施すべきというものであった。同委員会の提案は、政府に提出されたものの、その後、政府からの回答はなく、消え去ってしまった。首相府タイクーファー・ビル内の事務机の引き出しの中の書類ケースに収納されてしまった。

 それどころか、以前には国民和解に関する事項をタイ史上初めて憲法草案に盛り込む試みが行われたが、結果的には同憲法草案は国家改革会議によって破り捨てられてしまい断念してしまった。国家立法議会(NLA)が代わりにホストとなり、国民和解のための努力をしようとしても、最後にはプラユット首相兼NCPO議長が即時にブレーキを踏んでしまい、NLAは進めることが出来なかった。つまり、国民和解への道は、長い期間に亘って、絨毯の下に隠されてきたのであった。

 先週、政府は、この国民和解を具体的に実行していくことを発表し、「国家改革・国家戦略・調和創造国民和解行政運営委員会」を設置した。同委員会の設置に関し、政府は、恩赦の実施に焦点を当てるのではなく、根本的な原因を解消することを通じた、構造的な国民和解の実現を目的としている。要するに政府は、国家改革を基礎としながら、国民和解を進めようとしているのである。その意味することは、国家改革が成功すれば、その成果として様々な次元での平等が実現し、それにより、全ての人々が等しく資源を利用できるようになり、自動的に国民和解が達成されるということである。

 ともかく、政府の動きに注目すれば、国民和解に本気で取り組む気があるようである。そうでなければ、政府は自らがホストするようなことはしなかったであろう。特にプラウィット副首相兼国防大臣自らが、国民和解のための戦略運営を担っていることから、その本気度が覗える。プラウィットは、「現在、国民和解し、共存出来るようにするため、(委員会の)組織を準備しているところである。実行のための組織が整ったら、首相に提案し、承認を求める予定である。その後、各政党の代表を招集し、議論を進める前に同委員会の会議を開催する予定である」と述べている。プラウィットの政治手腕は、特別に注目に値する。プラウィットは、タイ貢献党であろうと民主党であろうと多くの政治家との豊富な人脈を有し、赤シャツ、黄シャツの政治運動グループとさえ人脈を有する軍人であることを忘れてはならない。

 まだ正式に着手していないというのに、政治家達は、これまでの試みでの批判的な意見とは異なって、今回は明確に好意的な反応を示している。従って、NCPOが成功する可能性は高い。国民和解を成功に導くための重要な要素は、「時間と状況を強制される」ことであった。何故そのようなことを言うかといえば、国民和解に向けた動きは、NCPOの運営下の最後の時期に差し掛かって、やっと現実的になってきているからである。NCPOは、政権運営の終わりを迎える前に具体的な成果を残しておきたいのである。これは、農民達の言葉を借りて言えば、「最終列車」である。今回こそは、不正汚職事件と刑法第112条不敬罪以外の訴訟・刑罰を抱えている全ての関係者にとって、NCPOが主導する国民和解プロセスによって、刑罰を軽くする乃至は帳消しにするための最後の機会である。明確なことは、国民和解に向けての今回の列車は、本当に最終列車であることである。NLAが「政治犯の公正処遇に関する法案」を政府に提案したことから、もう逃げることは出来ない。政府は、これまでのように時間稼ぎをするのではなく、本気で取り組むことを示している。なぜ政治家達が今回は国民和解に向けて好意的な反応しているのか不思議だと思う必要はない。それは、この最終電車に乗り遅れたら、もう次の機会は残されていないからである。

ロードマップ延期に関する評論記事

マティチョンは、「非継続的な言葉:不確実な状態でロードマップは同じまま」と題したロードマップ延期に関する評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 基本的に「ロードマップは同じまま」であると結論づけられる。しかし、総選挙は2017年中には実施されない可能性があることを認めなければならない。これがロードマップの相反した特徴である。これは奇妙に聞こえるだろうが、実際にその通りなのである。なぜ「ロードマップは同じまま」なのであろうか。その答えは、プラユット・チャンオーチャー首相がそう確認しているからであり、プラウィット・ウォンスワン副首相兼国防相も同じく、そのように確認しているからである。この2人が確認しているのだから、信用しなければならない。

 他方で国連総会での(クーデター直後にプラユット首相が早期の民政復帰を約束した)「ニューヨークでの誓い」の当初からの想定のように、「同じまま」というのは、「ロードマップ」が自体が「同じまま」であるのか、2017年末に総選挙が実施されず、2018年にずれ込むような状態であるのか、再検討しなければならない。従って、「ロードマップ」が「同じまま」という言葉の解釈は重要となる。

 「同じまま」の言葉を理解するには、ロードマップの意味の定義から始めなければならない。ロードマップとは、憲法を最初、1番として始まるものである。そしてニューヨークでの誓いのようにロードマップに沿って、総選挙が実施される。それには、まず国民投票で可決され、昨年11月9日に上奏された憲法草案が正式に公布・施行されることを前提としている。

 もし、全てが正常に手続きが進んでいれば、上奏から90日以内、つまり2017年2月6日までに新憲法を公布・施行出来ていたはずであった。しかし、国王秘書官長室が憲法草案に関する国王の「ご意見」を通知する書簡を提出してきたので、憲法草案の国王に関する規定を修正しなければならなくなった。憲法草案を修正するために2014年暫定憲法の改正から開始しなければならなくなった。その後に政府は、国民投票を通過した憲法草案の内容の修正を特別委員会に任せることになった。このことは、新たな憲法草案を起草し直すことに等しいことである。

 世界をどれくらい美しいものであると見ていようと、2014年暫定憲法を改正する理由、憲法草案の国王に関する規定を修正することの理由、それこそが「変数」と呼ばれるものに他ならない。少なくとも新憲法の公布・施行は、延期されることは免れなくなった。どれくらい延期になるのか、誰も答えることはできない。「ロードマップ」に沿って、実施することの「中身」に関しては、「同じまま」と呼ぶことは出来るが、暫定憲法改正と憲法草案修正によって、その「期間」は先に伸びることになった。従って、総選挙の実施は、以前の日程通りには出来ないのである。

 「ロードマップ」は、首相が確認したように「同じまま」であり、その手順で「総選挙」は、実施されるが、それまでの期間が延期になるのである。これら全ては、「ロードマップは同じまま」の意図するところの「非継続性」を反映しているのである。総選挙の実施に向けてロードマップから逸脱するミスをしたとの感情を招きたくなかったのである。

ロードマップの延期可能性に関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、「選挙実施を延期させるリスク要因」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 2017年の新しい暦が始まってから間もないが、政治状況は熱くなってきている。国家立法議会(NLA)が2017年中に予定している総選挙の実施が2018年半ばに延期になるとの合図を送ってきたからである。もしNLAの普通の議員がそのような見通しを語ったのであれば、それほどの重要性はなかったであろうが、この可能性を語り出したのが、4本の憲法付属法案の審議の全体を監督すべきスラチャイ・リアンブンルートチャイ第1副議長であったから、即時に重要な合図として受け止められた。NLA副議長がロードマップ延期の合図を発したことは、NLA議員達にも影響を与えた。現在の状況から分析すれば、ロードマップを延期させるに十分なリスク要因が少なくとも以下の3点存在している。

 第1に国家改革法の制定である。現在公布・施行を待っている新憲法は、厳しい国家改革のタイムフレームを設定している。憲法公布・施行後120日以内に国家改革推進議会(NRSA)に今後の国家改革の手続きのための法案をNLAへ提案させることになっている。NRSAが法案をNLAに提案すれば、NLAは他の議題に時間を割かず、全部をその法案の審議に費やすことにするだろう。NCPOとしても、単に法律を公布・施行することだけ望んでおらず、NCPOの政権期間中に国家改革に関連する法案を制定し、戦略を策定し、それを開始させることで、国家改革の基礎を築く重要な部分まで進めさせることを望んでいる。それがNCPOにとって、しばらく政権に留まり続けなければならない理由であり、ロードマップを延期させることにつながる。

 第2にNLAによる憲法付属法案の否決がもう一つの注目に値する問題である。これは、直接にロードマップを延期させることつながる要因だからである。新憲法案は、新憲法の公布・施行後240日以内に憲法起草委員会(CDC)に4本の憲法付属法案を起案し、NLAに送付するように規定されている。NLAは、法案を受理した時点から60日以内に各法案を審議検討しなければならない。これまでCDCとNLAは、何度も意見の食い違いを見せてきた。特に(国民投票の追加質問での)名簿外首相の指名選出に手続き関する解釈では、双方の意見は大きく食い違った。NLAは、上院議員が名簿外首相候補の指名を行う権限があると解釈し、他方CDCは、憲法草案を起案した立場として、それに同意することはなかった。そのときの対立は、現在までも心の傷として残っている。CDCが起案している憲法付属法案の幾つかの論点、例えば独立機関委員の指名選出のための委員会の規定などについて、NLAは賛同していない。仮にNLAがCDCの起案した憲法付属法案に賛成せず、大幅に内容を修正した結果、今度はそれにCDCが同意しなければ、15日以内に特別委員会を設置し、修正検討し、NLAに差し戻すことになる。NLAは再度採決し、もしNLAの3分の2がその法案に賛成しなければ、その法案はその場で廃案となる。従って、NLAとCDCの法案を巡る対立は、ロードマップの延期につながる重要な条件なのである。

 第3に政治混乱が収束しないことである。未だに法律で禁じられ、政党が政治活動を実施することは出来ないままになっているが、それはオンライン上の反NCPO勢力には効果をもたない。従って、NCPOは彼らを政党のように管理するができない。NCPOによる自由への規制への反発が広がり、反対派勢力の勢いが増してきつつある。既に多くの政府関係機関がサイバー攻撃を受け、NCPOは評判を落とした。以上の3つの要因によって、NLA副議長が予想したように、ロードマップがNCPOの当初の予定から遅れ、2018年半ばにまで延期になる可能性は十分にある。

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