トンナムのタイ政治経済研究室

タイ政治の解説、分析などを中心としたタイ研究の専門家によるブログです。

2016年11月

パッタニー県での妊婦女性殺害に関する評論記事

イサラニュースは、パッタニー県で26日に発生した妊婦女性殺害に関する評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 「このような暴力の使用は、どのような理由があろうと正当化できるものではない。このような暴力は、誰であろうと、どのグループであろうと批難すべきものである。弱い者、女性を標的とした暴力だからである。特に今回の事件は、妊婦が対象であり、イスラム教としても容認できるものではなく、国際的な人道的立場からも著しい違反である。」上記の言葉は、サラーウット・アーリー博士・チュラロンコン大学モスリム研究センター副所長が、26歳の出産を目前に控えた妊婦、ラッティガーン・ジャーワンがパッタニー県パナーレ郡パーラス市場で食事を買いに出かけた際に、何者かによって殺害された事件について語った言葉である。同事件は、深南部国境県問題という次元を越え、宗教的にも人道的にも誰もが容認することができないものである。

 未だ犯人は明確となっていないが、治安当局は、南部武装勢力の仕業である可能性が高いと見ている。なぜなら、11月19日に3つの郡内で仏教徒か教育関係者で弱い者を標的とした銃撃事件が発生する可能性があるとの注意喚起があり、その地域の一つが、事件が発生したパナーレ郡であったからである。問題は、なぜ妊婦を銃撃しなければならなかったのか、銃撃して何が得られるのか、このようなことをして支援者を失わないのか、そして、これが本当に国土分断(独立)につながるのかという点である。治安機関幹部によれば、弱い者を標的とすることは、武装勢力の戦略である。その目的は、住民達に政府、治安当局の力が信頼に足らないと思わせることである。当然ながら、このような事件が発生すれば、一般の人々は、事件を起こした武装勢力を批難するが、一方で、政府・治安当局が住民の生命・財産の保護に失敗したことへの批判も生み出すことになる。最後には、人々は、政府から離れ、政策を変更するように政府に圧力をかけることになり、武装勢力側の提示する条件に従わざるを得なくなるというものである。

 上記の見方は、BRNの戦略・戦術を研究してきたサムレット・シーラーイ陸軍大将・元第4方面軍副司令官の分析と一致している。同大将によれば、仏教徒を殺害する目的は、地域の仏教徒がマレー人を嫌悪するように仕向けるためであり、仏教徒がマレー人を嫌悪し、嫌疑するようになれば、仕返しをしようという動きが出てくるので、対立が激化していくことになる。そうなれば国土分断という目的につながるのである。武装勢力は、域内で成果を出すことを期待しているが、心理的な影響は地域内に留まらない。国家レベルで、深南部3県のモスリムへの嫌悪が強まることになる。そうなれば、国土分断につながるか、そうでなければ、何かしらの特別自治が与えられることになる。

 「子ども、女性、僧侶を対象とした銃撃は、ムスリムと仏教徒の関係を著しく損なうことになる。深南部国境県での治安問題は、人間関係の問題であると自分は見ている。重要な問題であり、地域内、宗教間の関係が良くなければ、マイナスの影響を与えることになる。今後は2つのグループが緊密となるように地域内で関係を構築していかなればならない。そうでなければ、南部での暴力の使用は、より酷くなる」とサラウット博士は語る。

 テロ事件のやり方に関して、先に標的を定めるのだろうか。RKKの手口に関するデータによれば、実行する前に、「弱い者を標的として狙え」、「爆弾を使用しろ」といった感じで、どこの地域で、どのような手口で事件を起こすかという方針について組織からの命令が下されるという。事件の指示が下されると、その対象地域内の仲間が標的を定める。仏教徒を銃撃したいと想定すれば、最も成功しやすいように誰を銃撃すべきかを選択する。そして標的が決まれば、標的の者を追跡、観察し、襲撃場所を決定する。そして、その地域の外からRKKのメンバーが現れ、銃を受け取って、引き金を引いたら、即時にその地域から逃亡する。事件実行までの期間は、全部で1週間以上を要する。場合によっては、自信を持って、ミスを犯すことなく実行するためには1ヶ月を要することもある。1回の銃撃事件当たりに参加する人数は10人程であり、爆弾事件の場合は、20-30人が参加することもある。

 一部の人々は、今回の事件の犯人は、被害者が妊婦であったことを知らなかっただけでないかと考えている。しかし、過去の事件を振り返ってみると、これまでに妊婦が襲撃された件数は少なくとも21件あり、そのうち9件では死亡しており、全て狙い撃ちされたものであった。

 パーラス市場が実行場所になった理由は、同市場が規模が大きく、パッタニー県内でマーヨー郡とパナーレ郡の中継地点となっており、逃亡が容易であるためである。これまでの集計をみれば、パーラス市場は、過去にも数え切れないほど多く(事件が発生しており)、「処刑場」と呼ぶことができる程である。同市場では、マーヨー郡のドゥワー村学校勤務のパイラット・ジットセーン教師(50歳)が2014年5月7日に殺害される事件も発生しており、また付近の道路沿いで薬品販売の夫婦が揃って殺害される事件が同年4月27日に発生している。2013年5月30日には、付近のガシコン銀行で強盗事件も発生している。以上が13年間続いている深南部での治安事件の状況の恐ろしさである。まだ解決の出口は見えていない。

2017年総選挙の予定に関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、「変化への波:2017年総選挙へ影響を及ぼす」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 ウィサヌ・クルアガーム副首相の23日の講演は、2017年の総選挙実施の変更に関する内容があり、興味深いものであった。その要点は以下のとおりであった。

 「2017年、タイは大きな変化に直面する。長い間我々が経験することのなかった御代、国王の交代である。新国王がいつ即位されるのかは、御心次第であり、準備をしておくことは出来るが、我々がその期日を定めるようなことはすべきことはでない。次に起こる変化は、憲法の公布であり、その中には今後の変化につながる様々なことが盛り込まれている。しかし、いつ公布・施行するかは問わないで欲しい。政府が憲法草案を上奏してから90日以内に判断されることである。その後は、新憲法に従って、変化がもたらされる。全ては憲法が公布・施行された時から開始される。憲法起草委員会は、憲法の公布・施行後に即時に憲法付属法案を発表できるようにするための自由な準備時間を手に入れたことになる。その後の手続きは、10本の憲法付属法の制定であるが、どのような問題が発生しようと8ヶ月以内に完了しなければならない。状況を見て予想すると、予定していた通り、2017年には総選挙を実施できるであろう。だが、政府の立場も公平に理解して欲しい。予定に影響を与える様々な変数が存在する。今のところ、まだその変数が何なのか見えないが、ある日そのような事態が発生し、2017年中に対処できるなら、2017年中に総選挙を実施し、もし対処出来ない場合は、非常時のことであるが、それに備えておこう」

 上記のウィサヌ副首相の発言の中での「影響を与える変数」への言及は、2017年に予定をしている総選挙は、最後には何らかの理由によって延期になる可能性があるとの合図を送っていることに相違ない。その「影響を与える変数」という言葉を分析すれば、10本の憲法付属法案の制定に間違いはないであろう。新憲法が公布・施行されれば、憲法起草委員会による付属法案起案のプロセスが正式にスタートすることになる。もし何も障害や妨害がなければ、付属法案の検討は期限内には終わるはずである。だが、もし付属法案の起案に関し、特に選挙関連4法案について、重要な障害が生じれば、憲法起草委員会と国家立法議会(NLA)の間での意見の相違が生じることは避けがたい。

 NLAの一部のグループは、付属法の新政党法について、有利不利が生じないようにするため、全ての既存政党を解党処分にする「セットゼロ」の実施を望んでいるが、憲法起草委員会はそれに賛同しておらず、それとは別に独立機関のセットゼロを望んでいる。憲法起草委員会が起案する付属法案については、NLAが内容を修正しないように何らかの権限を有しているわけではない。

 第267条では、NLAが憲法起草委員会が起案した憲法付属法案の意図に一致しないような修正をした場合、憲法裁判所か独立機関が法案修正のための合同委員会設置の手続きを進めることが出来る。その後の手続きは、NLAが修正した憲法付属法案に3分の2の議決、つまりNLA全250議席中の166議席を以て、反対した場合、その法案は廃案となり、期限を定めることなく、新しい法案を起案することになる。つまり、選挙に関連する4本の憲法付属法案のどれかでもそのような事態が生じれば、間接的に2017年の総選挙を目標は延期せざるを得なくなるのである。

 実際のところ、NLAが法案を3分の2の議席を以て否決するような事態は生じにくいが、以前にも、そのような発生しそうにない事態が発生したことがあったことを振り返ってみよう。それは、国家改革議会での憲法草案の採決である。国家改革議会でのその時の採決の際には、NCPOによって直接選ばれた議員達は、NCPO内の大物から、憲法草案を途中で放棄するようにとの命令が届いていたと言われる。将来、NCPOが選挙の実施をしたくなければ、選挙を延期させるために、NLAに対して付属法案を否決させるかもしれない。従って、選挙関連の付属法案の制定が遅れるかどうかは、NCPOが選挙を実施したいかどうか次第なのである。

独立機関委員の失職に関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、「独立機関:セットゼロはなくなったが、ブルブル震える」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 ついこの前までは、「政党のセットゼロ」が話題となり、憲法起草委員会(CDC)が攻撃の的になっていたが、現在、CDCが「独立機関のセットゼロ」を企んでいるとの容疑がかけられている。その理由は、新憲法が施行される前に職務についていた独立機関委員に関して、2007年憲法では独立機関の任期が満了するまでは、職務を継続すると明記してあったの対して、憲法草案の第273条では、その進退について、付属法で定めると記してあるからである。この点が独立機関委員達を震えさせ、幅広く議論が巻き起こしている。

 先日、タイ貢献党が全ての独立機関をセットゼロにすべきであると批判の声を上げた。プームタム・タイ貢献党幹事長代行は、CDCが一部の独立機関のセットゼロを進めることを煽り、「選挙管理委員会(EC)は、政党を解党処分にしたいときは簡単に言うが、自分が解散させられそうになれば、リセットされる側の気持ちもよく分かるようになるだろう。権力の座に固執すべきではない。また真実を知っているか、知らないままの状態で、自らが誰かを縛ることに固執すべきではない。もし、(セットゼロによる)手続きによって損失が発生するのであれば、連続性が保てるように制度を設計すれば良いだろう」と述べた。

 CDCは、選出委員会が独立機関委員及び憲法裁判所判事の中で憲法草案に定めた要件を満たさない人物の欠格を指摘すると手続きを説明する。CDCがこのような合図を送ってきたことは、新憲法及び各独立機関に関する付属法が施行となれば、少なくない数の独立機関委員及び憲法裁判所判事達が失職になる可能性がある。ECの中では、この境界線上にいるのが、ソムチャイ・シースティヤコンとプラウィット・ラッタナピアンの2人であり、他の裁判官出身の委員は問題はなさそうである。ソムチャイとプラウィットの両名は、それぞれ独立機関委員として失職となる要件があるが、理由は異なる。プラウィットの場合は、以前に国家オンブズマンを務めていたため、憲法草案第216条の「憲法裁判所判事または独立機関の委員でないこと、または、以前にその職務にあったことがないこと」という条件を満たせない。他方で、ソムチャイは、以前に独立機関の委員を務めたこともなく、政治職にも関係がないため、特に問題はないように見える。しかし、憲法草案第222条が判事か検事出身でないEC委員については、市民社会で20年以上の職務経験を有することを要件に定めているため、ソムチャイは、今後、選出委員会に対して自らが20年を超える職務経験を有していることを納得させなくてはならない。

 国家汚職防止委員会(NACC)は、同じような問題を抱えるもう一つの独立機関である。ワチャラポン・プラサーンラーチャキット警察大将・NACC委員長は、ノンタブリ県に位置するNACC事務所のこの職務に就く前は、プラウィット副首相兼国防相付の政務担当首相府副秘書官長であった。つまり、「仏暦2535年(1992年)政治職公務員法」の規定での「政治職公務員」に該当することになる。また上院、下院と同じ身分を有し、同じく政治職に当たる国家立法議会(NLA)議員でもあった。従って、ワチャラポン委員長は、憲法草案第216条と第202条の「下院議員、上院議員、政治職公務員、もしくは地方自治体の議会議員及び首長でないこと、または、以前にその職務にあってから10年を経過したこと」という2つの要件で失職の基準に当てはまることになる。アーコム・ウィタヤーピタックNACC委員も同じような運命を辿ることになるもう一人である。NACC副事務局長を経験するまで、長年に亘ってNACCの勤務を続けてきたが、会計検査院委員の役職を務めた経験があるので、第216条に該当し、失職となる可能性がある。

 憲法裁判所に関しては、憲法草案第200条で、「憲法裁判所判事は、政治学か法学の専門家であり、タイ国内の大学で5年以上の期間、教授職に有ったものが選出される」規定している。問題は、タウィキアット・ミーナガニットである。彼は、教授昇格の国王承認を得たのが、2011年であり、憲法再判事に就任したのが2013年であった。また同様にナカリン・メークトライラットも教授昇格が2011年であり、憲法裁判所判事に就任したのが2015年であった。憲法草案の要件をナカリンと、タウィキアットの2人に適用すれば、教授職の期間が5年に満たないことから、失職となる可能性がある。

農産品価格下落による政治リスクに関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、「農産品価格低下:直面するリスク」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 農産品価格低下問題は、現在、NCPO政権への圧力を増そうとしている。これから来年初頭までは、コメ、トウモロコシ、キャッサバ、椰子油、天然ゴムといった農産品が市場に供給されてくる時期にあたる。プラユット首相は、その他の問題と合わせて混乱が拡大していく前に急いで状況を改善しなくてはらない。

 これは大きな時限爆弾である。この処理を失敗すれば、クーデターで出来た政権か民主的な選挙で選ばれた政権かを問わず、これまでの政権と同様にプラユット政権の安定性を著しく損なうことになりかねない。なぜなら農産品価格低下問題は、国家全体の経済に影響を与えることになる。政府に救済を要求し始めている全国の多くの農業者の人々は、もし政府が満足のいく問題解決策を取られなければ、デモをして政府に圧力をかけると脅しをかけている。この圧力はより強くなっている。なぜなら、NCPO政権は、絶対的な権力を自らの手に握っているからである。休職処分も失職処分も下すことが出来、あらゆる障害も乗り越え、規則や手続きさえも思いのまま進めることが出来る権力である。さらに、政府は、過去からの教訓も得ている。昨年のときのように問題が発生しても大臣に就任したばかりであると言い訳することが出来ず、事前に問題解決の方策を用意しておく必要性があることを自覚している。もし以前の政権と比較され、問題解決の取り組みの成果が以前の政権よりも劣っていた場合には、政権への圧力はさらに強いものになる。

 NCPO政権は、この問題を的確に承知しており、解決が容易ではないことを知りながらも、急いで問題解決に取り組んでいる。この季節の農産品は、同じ時期に出荷され、市場メカニズムによって価格が低下することが通常のことである。従って、市場メカニズムに介入しても明確な成果が生じるとは限らない。さらに市場メカニズムへの介入は、巨額の予算を必要とするが、その成果は短期的にしか持続しないという制約も抱えている。

 いくつかの農産品価格の傾向をみれば、それが持続的に下落していることが見える。コメ価格でさえ、(政府の対策が開始されても)未だ回復していく傾向が見えない。現在、籾米担保制度(当館注:インラック政権時の政策「ジャムナム・カーオ」(コメ担保)から名称を変え、NCPOは「ジャムナム・ユンチャーン」(貯蔵庫担保)と名付けている)での価格は、1トン当たり8730バーツであり、その他の政策と合わせると、コメ農家は1トン当たりで1万1525バーツの収入を得ることが出来る。だが、この金額では、農家を満足させることにならず、これでは一部の救済に留まり十分な救済ではないと批判を受けることになっている。

 多くの人々は、正しい問題解決の方策は、政府が農民のグループ化を支援し、籾米に代えて、様々なチャンネルを通じた直販により自分達で精米を販売させることであると意見が一致している。多くの人が同意しても、それを実行する動きは進んでいない。その他の対策として、潜在性のある農地を集約する事業については、閣議提案を準備している。同事業は、農家が農地拡大のための土地取得に当たって、最大で1000万バーツの信用供与、5年間の返済猶予、利子率0.01%を行うもので、以前の最大500万バーツ、返済猶予3年から条件が改善されている。

 トウモロコシに関しては、コメと同様に下落傾向にあり、(商務省傘下の)「公共倉庫機構」(PWO)は、農家救済のために、家畜用飼料として、チェンマイやチェンライ県などの北部4-5県から10万トン購入するように政府から委任されている。本年末に収穫されるトウモロコシは、新年に市場に出荷される60%以上に相当する。商務省は、小麦輸入業者及び小麦を使用する業者の関連する協会や民間団体に対して、閣議決定に従って、3対1の割合で、家畜用飼料としてトウモロコシの購入を呼びかけている。

 椰子と天然ゴムに関しても状況は変わりない。これらは、「政治的商品」であるが、現在の価格はそこまで下落していないが、収穫が終わり、徐々に市場に供給されるようになれば、価格は下落していくことになる。

 各地域の経済が安定せず、世界経済の行方が不透明であることも、国内商業、国際貿易にとってのリスク要因であり、これが重なって、農産品価格の下落につながっている。農家の困難が解消されなければ、最後には農家をNCPO政権へのデモに駆り立てることになり、摩擦を生み出すことになる。年末から新年の初めにかけて、政府にとって、重大な問題に直面する重要な転換点に差し掛かることになる。

元タイ貢献党議員の弾劾決議に関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、「NCPOとタイ貢献党の和解の道は閉ざされた」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。


 国家立法議会」(NLA)においてナリソン・トーンティラート元タイ貢献党議員(サコンナコン県選出)の2007年憲法改正法案審議の際の替え玉投票問題に関して、弾劾決議が賛成221対反対1、棄権2で可決された。またウドムデート・ラッタナサティアン元タイ貢献党議員(ノンタブリ県選出)の2007年憲法改正法案を国会提出前に国会議長に提出した手続きの不正に関しても、賛成206対反対15、棄権3で弾劾決議が可決した。これらの弾劾の可決によって、ナリソンとウドムデートの2名は、5年間の公職就任禁止処分を下されることになった。新憲法案では弾劾権を憲法裁判所と行政裁判所のみに与え(上院による弾劾権を廃止にし)たので、これが2007年憲法に基づく最後の国会での弾劾決議となった。


 NLAでのこのような採決結果となったのは、NCPOとタイ貢献党の対立関係が強く反映したからである。これが未だに各派の対立を断つことができず和解を困難にさせているのである。今回の動きは、NLAでのインラック前首相の弾劾から始まり、刑事訴追、そして民事訴訟での損害賠償請求、現在の行政執行手続きによる350億バーツの財産没収と引き続いている流れと一致したものである。


 当初、NCPOと旧インラック政権側との間で和解をする努力が行われていた。その頃には、コメ担保融資制度に関する訴追はほとんど前進することはなかった。さらに、その頃には、2017年の総選挙後に旧政権側から再び首相が選出され、新政権を運営することになるとの臆測があった。このような潮流は、徐々に消失し、静かになっていき、代わりにプラユット首相が再任するとの見方が強くなっていった。


 NCPOとタイ貢献党の関係を計る上で欠かすことのできない重要な合図がウドムデート氏の弾劾決議から見ることが出来る。採決を取る前の最終コーナー時点では、NLAでウドムデート氏の弾劾を否決をするように働きかけるロビー活動が行われていた。当初から、その票数は少なくはなかった。さらにウドムデート氏と親しい「大物女性政治家」(当館注:スダラット元農業協同組合相を指すと思われる)が自らロビー活動を手助けした。この「大物女性政治家」は、NCPO内の大物との人脈を有している。そのため、弾劾否決派の票は勢いを増していた。


 そうした際に、ジェームサック・ピントーン元国家改革議会議員は、「もし、この金曜日にNLAが違反者を弾劾しなければ、どうやって社会に説明するというのか。政府とNCPOは一緒に責任を取るというだろうか。憲法裁判所がこれだけ明確に(違憲行為であるとの)判決を下していて、さらに国家汚職防止委員会(NACC)が全会一致で違反を指摘しているというのに、NLAが弾劾をしないというのであれば、ナリソンとウドムデートの両名に加えてNLAも同様に弾劾しなければならないのではないだろうか」と主張した。また同様にカムヌン・シッティサマーン元国家改革議会議員は、「この事案は、単なる弾劾のみの事案ではない。既に憲法裁判所が違憲行為であると判決を下した事案であり、同判決は最高のものであり、全ての機関を拘束するものである」と述べた。これらの発言と社会の潮流は、NLAへの足枷となり、圧力をかけることになった。もしウドムデートを救済する合図を送ってしまえば、NCPOへの信頼を損ねることになり、将来への問題を生み出すことになりかねない。


 NACC代表のスパー・ピヤチットは、NLAへの弾劾審議の閉会陳述において、以下のように明確に述べている。「弾劾対象者(ウドムデート)は、国会議長が議題の指示をする前に憲法改正法案の内容に修正を行ったことを慣例に従ったという説明で追及を逃れようとしているが、NACCとしては、憲法は国家の最高法規であり、改正の方法を明記しているので、そのような修正は不正である。国会議長の指示の前に憲法法案内容を修正することは出来ない。法律を逃れ、慣例を引き合いに出すことも同様に許されることでなく、追及を逃れることはできないと判断する」。


 一方、ウドムデートの閉会陳述では、「国会審議の前に憲法改正法案の内容を修正したことは、意図的なものではなく、与党側国対職員に政府職員と調整することを任せていたものであり、皆が憲法違反、国会規則違反ではないと意見が一致している。弾劾追及は、偽物の憲法改正法案と憲法改正法案をすり替えたというものである。一般人は混乱するだろうが、憲法改正を提案したメンバーの意図に沿わないミスが見つかったため、修正手続きを行ったに過ぎないと保証する」と述べた。結局、NLAでウドムデートの弾劾は可決し、タイ貢献党とNCPOの対立関係はより決定的になった。


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