トンナムのタイ政治経済研究室

タイ政治の解説、分析などを中心としたタイ研究の専門家によるブログです。

2016年10月

中小政党に関する評論記事

ポストトゥデイ・オンライン版は、「小政党の黄金期」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 憲法起草委員会(CDC)が憲法付属政党法を起案するに当たっての重要な課題は、資本家や特定の人物が思いのままに独占的に意志決定でき、支配されてしまっている政党の仕組みを真に国民のものにさせることである。ミーチャイCDC委員長は、国民が政党に参加しやすいように政党の設立要件をより容易にすると説明した。それは、党設立に当たって、500人の仲間を集めて、各自が政党活動資金を供与し、各自が政党のオーナーであるようにするというものである。

 政党設立要件がどのように緩和されるのか注目してみよう。設立当初の党員数は、2007年政党法の第26条では、政党設立の登録を行ってから、1年以内に5000人以上の会員を集めなければならなかった。この数字は、各地方からの党員で構成されなければならなかった。政党登録人が定めた通りの県に支部を開設し、また各地方毎に最低1つの支部を設立する必要があった。新憲法付属政党法では、政党設立手続き開始時点での党員は15人以上で、その後500人を集めれば済むように規定しようとしている。つまり500人の党員を揃えた時点で、選挙管理委員会(EC)に即時に政党として登録出来ることになる。政党設立を容易にさせることは、国民を政党のオーナーとして参加させることだけではなく、政治家が党を離脱して、新党を立ち上げることを容易にさせることにもなる。これは全ての既存政党を解党処分・再登録を義務づける「セットゼロ」に代わる(既存政党を牽制する)方法にもなり得る。

 これまでは、長年に亘って積み重なった対立が解消されることを期待して、政治グループの解散を推進しようとする動きがあったが、CDCは、混乱を生じさせることがないように、政党解党の「セットゼロ」を実施する考えがないことが明確になった。これまで様々な問題を抱えている大政党制を振り返ってみると、その問題の一つとは、同じ地盤内での複数の候補者が特定の政党から出馬する場合に党公認の候補者の決定に当たって、その希望が叶った人物と叶わずに失望を味わった人物が生じることにある。出馬できなかった人物は、大政党制の下では、次回の選挙を待つ以外に何も出来ることはない。

 新しいルールによって政党設立が容易になり且つ新しい選挙制度が導入されれば、選挙区に強い地盤を有する下院立候補者は、大政党に所属して政党からの集票活動の支援を受けることがなくても、議席を狙うことができることになる。現在の状況下では、大政党への人気も低下傾向にあり、以前の地滑り的勝利を収めたような支持を集めているわけではない。NCPOが全てをロードマップに沿って進めていくこと確認してから、多くの政治家が動き始めており、次回の選挙に向けて、新政党を設立する準備をしている徴候が見えてきた。

 多くの政治家が新政党を設立したいと考える背景には、総選挙後に中小政党が政治を決定する重要な変数となり、その交渉力が増大すると予想されていることがある。首相の選出に当たっても、移行期においては、(NCPOによって任命される)上院が加わることになっており、大政党が選挙後に第1党になったとしても自らの政党だけで首相を選出することができないことになっている。最後には、大政党が友好的な中小政党を招いて連立政権を組まなければならず、中小政党が政治の行方を決定する変数となるのである。また引き続き、国会での法律を制定するためや解散をするため、また「コブラ」(政党に所属しながら他党を支持する裏切り者)を生み出さないためには、大政党は中小政党の歓心を買う必要がある。そのため政治の将来は、小政党にとっての黄金期が待っているのである。

プラウィット副首相兼国防相のハワイ訪問に関する評論記事

マティチョンは、プラウィット副首相兼国防相の米ASEAN防衛大臣非公式会合の参加にかかるタイ航空機チャーター便費用問題につき、「アロハ-ハワイ:『ポーンパン夫人』の倫理問題は繰り返す」と題した評論記事を掲載しているところ、概要以下のとおり。

 プラウィット副首相兼国防大臣一行が9月29日~10月2日にかけて利用したタイ航空の2000万バーツのチャーター便が話題となっている。これは、「(プリチャー前国防事務次官の)ポーンパン夫人」問題の繰り返しであり、国防省内で繰り返し生じた問題である。またソーシャルメディアを通じて繰り返し拡散し、その後新聞でも報じられた問題である。そして、「内部」の人物によって噴出してきた問題である。この事象は、「ガラス媒体メディア」の役割が、「紙媒体」よりもサッカーでいうところのフォーワードとして、優勢であることを示している。

 同時に、これはタイの古い格言である「身から出た錆」を表している。社会的にスキャンダラスなことになる政治問題は、最初は「内部」からの小さな点が大きなモノになっていく。内部から噴出しなければ、外部にまで拡散することはなかったであろう。最終的には、タイ航空チャーター便の問題は公務手続き上、違法と判断されることはないだろうが、社会的には、不適切だという感情が残ることになる。

 ハワイ州ホノルルで開催された米ASEAN防衛大臣非公式会合への参加は秘密事項ではなかった。そこでの疑問点は、なぜ新聞というメディアがこの事件を拡散させたのではなく、オンラインのソーシャルメディアを通じて騒動になったのかである。その答えは、「新聞は、用心深いこと」である。「ガラス媒体メディア」が「噂」の段階から報じたの対して、その反対に新聞は、首相秘書官長室のウェブサイトからの書類を引用し報じていた。2095万3800バーツという数字もそこから出てきたデータである。

 タイ航空のチャーター便は、広く知られた事実となり、訪問者の中には、チャイチャーン・チャーンモンコン国防事務次官(陸軍大将)、コンチープ国防省報道官(陸軍少将)が含まれていたことも知られている。それ以外にも、証拠書類の中には、どこかの会社のジャーナリストとカメラマンが含まれていることも近日中に公表されるだろう。これは、内部から広まってきた話である。

 「ポーンパン夫人」の事例と「ハワイ・ホノルル」の事例を突き合わせてみれば、これらのニュースを結びつける「ベルト」が存在することが明確である。それは、「塩が芋虫になる」(信頼していた身内の人間が腐らせる)という特徴である、国防省内部での対立、国防事務次官室内部での対立から始まり、ニュースの全てが拡散してしまったのである。ポーンパン夫人の(問題となった)異様な振る舞いの写真も周辺の人物から広められたものである。プラウィット副首相兼国防大臣がアロハシャツを着てくつろいでいる姿の写真も「報道チーム」が注意せずに本人の知らないところで撮影し、周辺の人物から広められたものである。

 広く知られるべきことが拡散されることは、基本的に良いことである。微笑んで、挨拶をしている一枚一枚の写真が流出し、賑わせている。国防省のチャーター便とプラユット首相一行のニューヨーク訪問やロシア・サンクトペテルブルグ訪問の際のチャーター便を比較すれば、これが恥ずべきことであるとの感情を掻き立てることになる。だからオンライン上で炎上しているのである。

 これらのこと全ては、国家汚職防止委員会が調査すべきことではない。なぜなら調査を終えて評決をとっても、9対0で不正ではないとの判断が待っているからである。全ては、(アピシット政権期のアヌポン陸軍司令官が関与した)GT200爆弾探知機納入に関する不正事案の調査や、ウクライナ製の戦車調達の不正疑惑調査、ラチャパック国立公園建設に関する汚職疑惑調査と同じように進んでいくだろう。ただ、これらの行為が適切なのかどうかと問われば、国民は心の中でその回答を持っている。

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